久しぶりのふかふかの温もりに包まれながら、惰眠を貪る。やはりソファとベッドでは格段に寝心地が違う。毛布を引き上げてごろりと寝返りを打つとふわふわの枕に顔が埋まった。
へにゃり。温もりを持ったそれが心地よくて顔を擦り付ける。肌触りのよい毛並みとほんの少しの獣臭さ──ん?
鼻を掠める臭いに薄く目を開けた。ぼやける視界に黒い何かが入り込む。
「ん……んん……?」
よく見ようと目を擦る。
黒い何かには尖った耳がぴょこりと生えていて、ぎらぎらとした赤い瞳がじっと此方を睨んでいた。涎にまみれて鈍く光る牙が見えかくれしている──いつぞや見た黒豹だ。
「ぎゃああああああ!!!?喰われる!?!?あい"だぁ──!?」
それを認識した俺の反応は早かった。ベッドから跳ね起き、距離をとるために逃げようとして脇に置いていた鞄に足を引っ掛けて色んな物を蹴散らし転げた。そこかしこを打ち付けた痛みを堪えながら身体を起こし、半泣きのままその恐ろしい形相で唸る黒豹を凝視する。
どうしたら──
「ギャハハハ!!想像以上の反応ぅ!!最高ダゼ、イオリちゃん!」
下品な笑い声がした方に顔を向けると本棚の上の僅かに空いたスペースにグリフォンが収まっていた。まだ笑いが治まらないのかゲラゲラと器用に翼で腹を抱えている。その瞬間に全てを悟り、もう一度枕元に視線を戻すと唸っていた黒豹は一変し、イオリの事など微塵にも気にした様子もなく呑気に欠伸をしながら、二度寝を決め込もうとしていた。
「はぁ〜……」
グリフォンにしてやられた。頭を押さえながらため息をつく。いい眠気覚ましにはなった。少々刺激がキツすぎではあったけれども。
「イオリ、何をしている」
自室のドアが開かれて、うんざりとした表情でブイが入ってきた。丁度読書中だったのだろう、片手には昨日借りてきたばかりのユリゼンの書が握られている。
「なぁ、ブイ……あの黒豹何?」
「シャドウだ」
名前を聞きたかった訳ではなかったのだが。要するに黒豹──シャドウもグリフォンと同じく、ブイのペットということで良いのだろう。
もう一度ベッドに目を落とすと、広くなったベッドで身体を丸めて眠っていた。こうして見ると犬猫と同じで可愛い。ブイのペットなら触っても大丈夫かな、と恐る恐る手を伸ばす。
「ひぃんっ!」
触れるか触れないかの瀬戸際でシャドウが赤目を開け牙を剥いて、俺は即座に手を引っ込める。一瞬可愛いと思ったが、檻の中にいない大型肉食獣は普通に怖かった。睨みあったまま石化する。
「ふ、安心しろ。俺が命令しない限りは手を出さないさ」
「マジで?やった!デカイ猫もふるの夢だったんだよな!」
「……加減せねば、機嫌を損ねるぞ」
「いやぁぁーーー!!溶けたぁああ!!!何これブイぃぃいいい!!!」
飛び付いてもふろうとした瞬間にシャドウはどろりと溶けていて、別の意味で恐怖を味わった。
五日目。