- ナノ -

と、いうわけで。昨夜の予定通り今日はブイの日用品の買い物と、街の案内だ。当たり前のようにパンクなコートに腕を通そうとしたブイを止めて、比較的綺麗めなスウェットを着てもらった。部屋着なのにブイが着ると何故か余所行きに見える。顔がいいって羨ましい。

身支度を整えて、さぁ出発、というところで、茶々を入れてきたのはグリフォンだ。

「置いていくなっての、Vちゃんよォ!」

狭い廊下をバサバサと器用に飛び、ブイの腕に着地した。昨日あれだけ言ったのに着いてくるつもりのようだ。

「昨日も言った、ろ……──は?」

瞬きの間にグリフォンが消えた。何を言ってるかわからないと思うが、文字通り音もなくグリフォンはいなくなった。

ぽかりと口を開けて、呆ける俺を放置してブイはさっさと外へ出ている。

「ちょ、今の何!?」

「しまった」

「しまう!?収納できんの!?あの鳥!?」

袖を軽く捲り上げる動作をされても何が何だかわからない。気持ちタトゥーが増えてる……ような気がしなくもない。
ブイのビックリ人間ぶりには驚かされっぱなしだ。「マジかよ」というイオリの呟きにブイは満足そうに口角を上げていた。

気を取り直して、ブイと出会った公園に赴いた。夜とはうって変わって公園内は散歩をしている老人や井戸端会議をしている主婦がいて各々穏やな時間を過ごしている。
穏やかすぎるほど、穏やかな昼前の一幕に首をかしげた。そういえばあんなことがあったというのにニュースにすらなっていなかったのだ。あれほどの血の量に、身の丈以上の化け物がいたら死骸だったとしても大騒ぎになってもいいはずなのだが。

「あのトカゲモドキって結局どうなったんだ?」

「悪魔は死ぬと消滅する。どんなに大きさでもな」

成る程。道理で騒ぎにならなかった訳だ。あの時間帯だし、人が動き出す早朝には死骸がなかったのなら目撃者がいなかったのも頷ける。

「…………」

不意にブイが足を止めた。隣に並び、遠くを見つめるブイの視線をなぞる。馬を模した緑色のスプリング遊具で、子供が遊んでいた。懐かしさとほんの少しの憧憬を瞳に孕ませて、ブイは静かに話し始めた。

「子供の頃……あれとよく似た木馬で遊んでいた」

過去に思いを馳せるようにブイは目を細める。

「お気に入りで……弟が五月蝿いときはいつもそこで本を読んだものだ」

「へぇ……小さいときから本が好きだったんだな」

──俺と同じ。そう言って笑えば、ブイもつられたように小さく笑う。
それにしてもブイはお兄ちゃんだったとは。きっと弟もブイに似てさぞイケメンなのだろうなと頭の中で弟の顔を勝手に妄想してみたりした。

「帰りに子供がいなかったら座ってみようか」

「バカいえ。もうそんな子供じゃない」

「いやいや、もしかしたら戻れるかもだろ?何でも試してみないと」

異世界に戻る方法なんて検討もつかないのだから何でも試してみる価値はある。似ていたのならそれも何かしらの関係があるかも知れない。あのウィリアム・ブレイクの詩集しかり。

「……覚えていたらな」

遊具に座るのはちょっぴり恥ずかしいのか、そっけない反応が返ってきた。
四日目。

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