油断していた。不意を突かれ、ベヒモスの大口に呑まれてしまった。こんなところで死ねないと腹の中でグリフォンとシャドウが力の限り、大暴れして何とかベヒモスの胃袋から脱出した──のはいいが、目の前の景色はがらりと変わっていた。
「んんん……どこだァ、ここ」
グリフォンがVの心を代弁する。レッドグレイブにこんな場所は無かった筈だ。それに街の中央にあったクリフォトもどこにも見当たらない。 ベヒモスの口内に次元の間を超える力があるなんて聞いたこともない。あれは図体だけの悪魔だ。そのはずだ。
『ぐぉぉぉぉぉ……!!』
腸を抉られてもまだ止まらぬベヒモスにVは静かに息を吐き出した。一先ずベヒモスを倒さねばゆっくりと考え事も出来ない。「殺れ」と一言、命令すれば影からシャドウが飛び出す。身体を刃に変形させてベヒモスの身体を刻み付けた。
切り落とされた肉片がべちゃべちゃと地面を汚す。徐々に動きが鈍くなり、ベヒモスは動きを止めた。トドメとばかりにシャドウが喉元に食らいつく。
その向こうに、男が一人。
「ひえっ……!?」
喉をひきつらせたと思ったら、ふらりと倒れてしまった。
ベヒモスにトドメを刺して、倒れた男を確認する。ここがどこか確認したかったのだが、暫く目を覚まさなさそうだ。足元に散らばった男の荷物に目がいった。ビジネスバッグらしきものと缶ビールとツマミの入った袋、それから──
「これは……」
袋からはみ出したハードカバーの本を拾い上げる。グリフォンが肩に留まり、手元を覗きこんだ。
「それ詩人ちゃんと同じヤツ?」
「あぁ、そうだ」
"V"と書かれていない、ウィリアム・ブレイクの詩集。何となく、男に親近感が沸いた。気がつけばVは男を担ぎ、ベンチへと移動していた。
同じ趣味の男と話してみたいと思ったのだ。
ファーストコンタクト