龍が如く1
34:選択
エレベーターに乗り、セレナのドアを開けて中へと入った。少し緊張した面持ちの麗奈がカウンターにいる。僅かばかりの殺意を麗奈から感じて、アスカは麗奈を凝視した。
「錦山くん……ごめんね」
「!?」
「どういうつもりだ、麗奈」
謝罪と共に向けられたのは銃口だった。まさか麗奈がそんな事をするとは思いもせず、アスカは動揺を隠せない。テメェ、と唸る錦山に麗奈は動かないで!と叫ぶ。
「私、もう桐生ちゃんを裏切るのは嫌なの……だから、貴方を……!」
「お前に俺が撃てるのか?」
「……撃てるわ」
引き金に掛けた指に力が入ったのがわかった。呼吸も忘れて、二人の成り行きを見つめる。
「もう用済みだ。死ね、麗奈!」
錦山は素早くスーツの内に手を突っ込んだ。そして大声に怯んだ麗奈に向けて容赦なく発砲した。怖くなって目を硬く瞑り、手で顔を覆う。
タァンーー
銃声。そして、ガラスが割れる音と大きな物音が立て続けに響き、アスカは身体を縮こまらせながらも恐る恐る周囲を確認した。散乱した椅子とグラス。それからーー
「シンジィ!テメェどういうつもりだ!!」
荒々しい錦山の怒声にアスカは震え上がった。コートを着た丸刈りの男ーー田中シンジが錦山の上にのし掛かり腕を掴んで拘束している。いくら錦山とはいえ、同じ体格の男にのし掛かられては身動きが取れないようで、手足をじたばたと動かしているだけだった。
怖くなって一歩後退すると踵が何かにぶつかった。視線を落とすと床に銃が落ちている。揉み合いでこちらまで飛ばされたのだろう。震えながらも銃に手を伸ばした。
「こいつを撃て!!アスカ!!」
「アスカくん!止めて!!」
「駄目だ!アスカさん!」
それに気付いた三人が同時に叫ぶ。麗奈は泣きそうな表情でこちらを見つめ、シンジは床に倒れた錦山を拘束している。
銃を持つ手が震えた。こんなにも銃は重いものだっただろうか。重すぎる銃を取り落としそうになりながらも、アスカは銃口をーー
自分の口へ突っ込んだ。シンジの背中へ向けた。
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