- ナノ -

龍が如く1

26:龍の帰還


side:桐生


10年ぶりの神室町は何もかもが変わっていて桐生は少し戸惑ってしまった。たかが10年、されど10年。時の流れを痛感しながら、出所の数日前に届いた親代わりである風間の手紙を見直す。手紙には迎えに行けない事への謝罪と、話したい事がある、ととある店の名前が綴られていた。

"スターダスト"

聞いた事のない店の名前だった。少なくとも10年前はなかったように思う。所在までは書かれていなかったため、どの通りにあるのかも分からない。しらみ潰しに当たればいずれは見つかるだろうが、時間が惜しい。神室町に詳しい誰かが居てくれれば……例えば情報屋みたいな。

「……アスカなら分かるか?」

情報屋で真っ先に思い浮かんだのは、太陽のように明るい金髪の男の笑顔だった。良く面会に来てくれていたのに5年程前からピタリと来なくなったのが引っ掛かる。元気にしていればいいのだが。
それにアスカの所在も分からない上、ポケベルも逮捕された時に没収されて連絡手段がない。目立つ風貌はしているが、待ち合わせもなしにこの広い神室町で見つけるのは難しい。アスカ以外の情報屋の知り合いなら田村もいるが、彼も10年経った今神室町にいるか怪しいところだ。

さて、どうしようか。と悩んでいる矢先にチンピラが絡んできた。

「オイ、アンタ。見かけねぇ面だが、何してんだ?」

昔から絡まれやすかったが、そこは何年経っても変わらないようだ。静かに息を吐き出して、桐生はチンピラに向き直った。

「お前に関係ないだろう」

「あるんだよ。それが。オッサンさ、どう見てもフツウじゃねぇよなぁ。……何、探り入れに来たんだ?」

どうもその筋の人間だと思われているらしい。破門されたため今はカタギなのだが、こういう人間は言っても信じないだろう。
なら情報屋の居場所くらい聞いてやろうと田村の居場所を訊ねてみる。

「田村って奴を探してんだ」

「田村?知らねぇなぁ」

本当に知らないのか、敢えて知らないふりをしているのか掴みづらいが、答える気がないならもうチンピラに用はない。じゃあな、と踵を返した。

「ちょっと待てよ、オッサン!何でその田村っての探してんだよ?」

しぶとく引き留められる。いつになくしつこいチンピラに眉間にシワを寄せて振り返った。

「しつこい奴だな……。スターダストって店を探してる」

「スターダスト?ホストクラブか何かの名前か?さぁねぇ……ま、情報屋なら知ってるんじゃねぇのか?」

さっきから何一つ有益な情報がない。眉間を押さえ、緩く頭を振りため息をついた。

「だからその田村を探してるって言ってるだろ。じゃあな」

これ以上こいつと話していても意味はなさそうだ。今度こそ切り上げようと桐生はやや足早に立ち去ろうとした。

「ちょっと待てよ、オッサン!」

が、再び呼び止められた。次は流石に振り返らず、首だけを動かしてチンピラに視線を投げた。

「何でそんな店、探してんだよ?ますます怪しいなぁ。ちょっと顔貸してもらうぜ」

「嫌だと言ったら?」

「じゃぁ、仕方ねぇなぁ。ちょっと痛い目にあってもらうぜ!」

拳を構えられては、面倒だが桐生も戦わざるを得ない。拳をごきりと鳴らし、チンピラと睨みあった。


prev next