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龍が如く4

06:伝説の18人殺し


約束の時間が近づいてくればくるほど、真島の近寄りがたさが増してくる。殴られてはたまらない、と組員達も一切真島に近づこうとはしない。アスカは真島の向かい側のソファに腰掛けながら、手持ちぶさたに携帯を弄っていた。二人の間に会話はないが、居心地の悪さは感じない。

ちらり、と視線だけを動かして真島を見た。何をするでもなくぼんやりと穴が開きそうなほど、テーブルの上の灰皿を見つめている。

「……25年ぶりなんだろ?会えて良かったじゃねぇか」

「まだ会うとらん」

無視されると思ったが、意外にもちゃんと言葉が帰ってきた。不機嫌そうに眉間にシワを寄せて、真島が此方を見ている。

「兄弟喧嘩すんなよ?」

「それは約束できんわ。アイツとは一回拳交えんとあかん」

「ほどほどにな……アイツらみたいにはなってほしくねぇから」

アイツらーー桐生と錦山。兄弟でありながら、互いに敵対しあい、そしてひとりは死んだ。そんな悲しい結末を真島には迎えてほしくない。

「安心せぇ。そないなことにはならへん」

「……そっか」

アスカの言う"アイツら"が誰かを察して、真島ははっきりと言い切った。力強い言葉にアスカは安心する。小さく笑みを浮かべ、携帯をスーツの胸ポケットに仕舞ってから立ち上がった。

「じゃ、俺は怪我人の手当てに行こうかな」

ひらひらと手を振ってから、テーブルに置いていた救急箱を片手に持ち、真島組の事務所を後にした。

エレベーターから下りるとすでにそこは真島組の組員達がひしめき合っていた。大半が黒スーツだからアスカまで真島の組員になってしまったかのような錯覚をしてしまう。

既に入り口の方では戦いが始まっており、怒声と共に騒々しい音が聞こえてくる。組員達の隙間を縫い、戦いがよく見える所へ移動した。

「おう、アスカやないか。お前も戦うんか?」

「何でだよ。俺は観戦と手当てだ」

最前で腕を組み、冴島の戦いを見ていた南がアスカに気づいて声をかけてくる。アスカが見ているだけだとしると、おもろないなぁ!と口をへの字にさせた。

「残りはお前らかぁ!!?あぁ!?」

片手で鷲掴みにしていた組員を放り投げ、ギロリと睨む。何十人を相手にしても息ひとつ切らさぬ冴島の力に畏怖しそうだ。

「今度は俺や!どれ程の漢か、試させてもらいますわ!」

ごきりと拳を鳴らして、南は前へ出る。暫し、睨み合う。先に攻撃を仕掛けたのは南だ。雄叫びを上げて、冴島に拳を振るった。

何十人もの組員達を相手にした後とは思えない程の俊敏さで冴島は拳を避ける。そしてフルパワーのカウンターを南へと浴びせた。南も反射的にバックステップを踏んだが、少し遅かったようで殴り飛ばされる。

「中々やるやないか」

口元からこぼれ落ちた血を手の甲で拭いながら、南はニヒルな笑みを浮かべた。そしてまた勝負が続けられる。

初めて南の戦っているところを初めてみたが、真島が言っていた通り、それなりに出来るようだ。動きの端々に真島の影が見える。しかし、まだまだ技術は未熟で真島には程遠い。

「……酒?」

倒されても負けじと立ち上がった南が、ジャージズボンのポケットから取り出したのはそこそこ大きな酒瓶とーーチャッカマン。何をしでかすのかと動向を見守っているとおもむろに酒を呷った。そして、口元にチャッカマンを寄せる。

カチッーーという着火音を合図に、口に含んだ酒を思い切り吹き出した。

「えぇ……マジか……」

酒を引火させ、火炎放射を繰り出した南に呆気にとられる。冴島もまさかそんな攻撃が来るとは思わなかったのだろう。火炎を半身に浴び、呻き声を上げて後退した。

型破りすぎて、逆に関心したのもつかの間で、おえぇーと気分を悪そうにしているの南にアスカは苦笑せざるを得なかった。


冴島の力は圧倒的だった。一撃一撃が重く強力で、南はガードした腕ごと突き飛ばされ、地面に転がる。

「まだや……まだ俺は終わってへんで……!」

満身創痍だというのに、まだ立ち上がろうとするその心意気は立派ではあるが、力量差がありすぎていて、南が何度立ち上がろうと勝てる相手ではない。これ以上戦ってもいたずらに時間を消費するだけだと思い、アスカは南を窘める。

「もう勝負はついたぞ。いい加減負けを認めろ」

「なんや次はお前がやるんか?」

殺意たっぷりの視線で貫かれてアスカは肩を竦めた。もし冴島と戦ったとして、南よりも善戦出来ないことはわかりきっている。只でさえ傷跡の多い身体なのに、わざわざ傷を増やすような真似をする必要もない。

「まさか。南くんに勝った時点で終わりだよ」

丁度、エレベーターが到着の音を鳴らし、扉がスライドする。上に案内するべきかと思っていたのに待ちきれずに降りてきたらしい。

真剣な表情で冴島へ歩み寄る。

「待たせたな、兄弟」

「真島……!」

「お前には、色々言い訳せなアカンねや。場所、変えよか」

何か言いたそうな冴島を黙らせて、顎をしゃくって出入り口を指す。それから、南の横にいるアスカを見た。

「ちょっと行ってくるから、コイツらのこと頼んだで」

「はいよ、行ってらっしゃい」

ひらひらと手を振り、真島と冴島を見送った。


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