- ナノ -

龍が如く1

18:カジノ狂いの医者


依頼を受けてから2日。日吉は思いの外、簡単に見つかった。ギャンブル狂いという情報を前もって聞いていたため、神室町に無数にある警察の目を掻い潜って存在している違法カジノや龍宮城といったギャンブルの場所を巡ればあっさりと所在はわかった。どうやら日吉はそういったカジノ店を巡り歩いていて、あちこちに借金をしているようだった。医師とは思えぬクズっぷりにアスカも調べながら呆れてしまった。

中国マフィアがバックに付いているとあるカジノで次こそはお金を稼ぐと息巻いている姿が確認できた。辺りを気にしながら、そそくさと建物に入っていく日吉の背中を物陰から見届ける。今しがたカジノに入ったから大負けするまでは出てこないだろう。アスカはポケットから携帯を取り出した。


程無くして、黒い車がアスカの前に止まった。出てきたのは錦山と数人の部下だ。

「流石フクロウだな。早くて助かる」

久しぶりに見た錦山が別人のように見えて、少し驚いた。良く言うならばヤクザの組長らしくなったって所だ。

前も白いスーツは着ていたがより良いブランドスーツに変わっているし、透かしデザインの白いネクタイを締めている。前は窮屈だなんて言ってしていなかったのに。それに袖からちらりと見える金色のゴツい腕時計、クロコ革の黒い靴ーーブランド物ばかりでいかにも、という雰囲気が出ている。

「それが仕事だからね」

何となく目を合わせるのが怖くて、カジノのある建物の方に身体を向けながら答えた。アスカの動きに気にした様子もなく錦山は隣に並ぶ。

「この仕事が終わったら報酬金も払ってやる……お前も来い」

「おう」

あまり気乗りはしなかったが、錦山に着いてカジノへと入った。

貧相な外観とは違い、中はきらびやかな装飾がされ、簡単なバーカウンターと休憩用の椅子も備え付けられている。元々ギャンブルの類いが好きではないため、存在は知ってはいても入ったことはない。錦山の部下の影に隠れながら辺りを興味深く見回した。近場のテーブルや台に触れて情報収集をしておく。

「オイ!お前今何をしたッ!!」

「ひ、ひぃっ!」

奥のポーカーテーブルが騒がしい。ディーラーと小太りの男ーー日吉が揉めているようだ。

「随分負けが込んでたが……イカサマやらかしたみたいですね」

「相変わらず仕様のねぇ"先生"だ」

含みのある呼び方がやや気になったが、ここからは錦山の仕事だ。何も言わずに成り行きを見守る。奥から出てきた屈強な男が日吉の腕を掴み、裏へと連れていこうとしているのを錦山が乱暴にも殴って止めた。

突然の乱入者に男達はぎろりと睨む。

「な……!?テメェ何してんだ!」

「そいつに用がある。消えろ」

「何言ってんだぁ……?消えるのはテメェだよ!このバカが!!」

流石中国マフィアがバックについているだけあって奥からぞろぞろと刃物を持った男達が姿を現した。同じように錦山組の構成員も武器を構え、睨み合う。

「死ねやコラァ!!」

ポーカー台が乱暴に蹴り倒され、抗争が始まった。カジノにいた客は突然始まった騒ぎに我先にと逃げていく。抗争に巻き込まれないようにアスカもさりげなく後退した。

鋭い音が何度も響き、刀と青龍刀が鍔迫り合う。時には椅子を投げ飛ばし、綺麗だったカジノはどんどんと荒れ果てていった。
錦山組の方が優勢だ。後、十数分もあれば抗争は終わるだろう。

「ひ、ひぃぃ……!!」

「あ」

乱闘の隙に日吉が足早に逃げていくのを見つけた。追いかけなくとも、あの脂肪たっぷりの体躯ではどのみち遠くまではいけないだろう。タクシーを使えるほどの金も持っていないのは確認済みだ。

アスカは喧嘩の中心から離れた壁にもたれ掛かりながら、騒動が終わるのを待った。


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