龍が如く1
12:面会と約束
灰色の高い壁に囲われた建物を見上げた。極道との付き合いがある以上、アスカ自身も間接的には犯罪を手助けしているようなものだ。もしかしたらアスカもここにお世話になる日がくる可能性もなきにしもあらずだ。
何となく不安を感じつつも、門をくぐり、刑務所へ入る。病院に良く似たリノリウムの床を踏みしめて、受付へ向かった。
「すみません。面会の希望なのですが……」
おずおずと受付の刑務官へ声をかけると、刑務官はちらりとこちらを一瞥し、どなたのですかと面会用の書類らしき紙を引き寄せながら尋ねてくる。
「桐生一馬です」
名を告げると刑務官はぴくりと眉を動かして、まじまじとアスカの顔を見つめてきた。ヤクザの関係者が気になるのだろうが、あまりいい気はしない。
「受刑者との関係は?」
「友人です」
根掘り葉掘りと聞かれて、最後は身分証を見せた。仕方のないこととはいえ、少々面倒くさい。刑務官はアスカが名前を記入した書類を注意深くチェックしてから、最後に判を押した。
もろもろの手続きを済ませ、ようやっと面会室へと案内されることになった。刑務所に入る機会などそうそうないため、辺りをちらちらと興味深く眺めながら刑務官の後を着いていく。
「では、受刑者がくるまでしばらくお待ち下さい」
面会室、と書かれたドアを開けて、中へと入る。白を基調にした正方形の狭い部屋の真ん中にはアクリル板が嵌め込まれた、テレビドラマでよく見る作りだ。蛍光灯の無機質な光が部屋を照らしている。用意されているパイプ椅子に腰かけて、桐生が来るのを待った。
数分後、桐生が立ち合いの刑務官と共に仕切りの向こう側のドアから入ってきた。あの事件から1週間。久しぶりに見た桐生は頭を丸め、灰色の囚人服を纏っていた。
「……アスカ」
「えぇっと……久しぶりだな、一馬」
元気そうで良かった。と笑うと桐生は眉を下げ、申し訳なさそうにしながら向かい側のパイプ椅子に座った。アクリル越しに桐生を見つめる。
世間話をしにわざわざ面会に来たわけではない。桐生にどうしても聞かなきゃならないことがあったのだ。
「……一馬、俺……現場に行ったんだ」
立ち合いの刑務官がいるため、あまり下手なことは言えない。言葉を選びながら慎重に桐生に告げる。
「そうか、なら……」
現場に行った、その言葉でサイコメトリーの事を知っている桐生はアスカが何を言いたいのか察したようだ。小さく頷いて、アスカは机の上に置いていた手をぎゅっと握りしめた。
「全部分かった。でも……」
「……俺がここにいることが全てだ」
言葉を遮られる。
「それでいいのか?」
桐生はどうあっても錦山を庇うつもりでいるようだ。それが桐生の意思なら、アスカもそれに従おうと思った。
「あぁ……。お前は俺の代わりに錦山を支えてやってくれ」
「おう。任せとけ」
にっと笑って、顔の横で親指を立てる。言われなくてもそのつもりだった。返答を聞き、桐生も小さく笑みを浮かべて同じように親指を立てた。
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