- ナノ -

龍が如く1

06:シスコンと




「で、俺はいつ優子ちゃんに会わせて貰えるのかな?」

「は?」

目の前でラーメンを啜る錦山に問うと、何故か威圧された。前々から薄々察してはいたが錦山のシスコンっぷりは折り紙付きのようだ。

可愛いだのなんだの散々聞かされてはいるが、当の本人に会った事は一度もない。勿論病弱だから、あまり無理はさせられないのだろうが、錦山の見舞いついでにちょっと一目見るくらいはさせてくれたっていいだろう。

「え〜だから、優子ちゃんに……」

「お前優子の事を馴れ馴れしく呼びすぎだ!」

「は!?」

だん、と机を叩いたせいで、ラーメンの汁が少しテーブルに溢れた。妹の事になると急にIQが低くなるのはいい加減やめてほしい。飛び散った汁を備え付けの手拭きでぬぐい取りながら、呆れたようにため息をつく。

「いや……ならなんて呼べばいいんだよ?呼び捨てか?」

優子、なんて。アスカは気分的にあまり女の子を呼び捨てにしたくはない。もし呼び捨てで呼んだとしても納得しないような気がするのだがーー

「もっとダメだ!」

「なら、優子さんか?」

「テメェに妹はやらねぇ!」

「……シスコンめ」

まるで娘を嫁にやりたくない頑固親父のようなやり取りにアスカは半目になる。

「そもそもなんでそんなに俺を会わせたくない訳?一馬も見舞いに行ったりしてるよな」

「……優子が……雑誌見て金髪の人ってカッコいいよねなんて言ってたからよ……」

「……成る程、わからん」

それがどうして会わせない理由になるのか意味がわからない。最後まで残しておいた煮卵を口へと放り込む。うむ、ここの煮卵は最高に旨い。

「お前に会わせて惚れられたら……俺はお前を消さなきゃならねぇ……」

「物騒すぎるぞ、シスコン」

実際消されそうで怖い。極道だから人を一人こっそり消す術はいくらでもあるだろうし、なにより錦山の顔が本気だ。

とはいえ、ここまで拒否されると逆に会いたくなるのが人の性である。

「……東都大学医学部附属病院304号室」

「テメェ……優子の病室まで知ってやがんのか!?」

「ま、情報屋だからこれくらいはね〜」

ははは〜と意地悪く笑って錦山の睨みを受け流す。ちなみに病室の情報元は桐生なのだが、錦山は知るよしもないだろう。

「……で、どうする?俺勝手に会いに行こうと思えば行けるんだけど……彰の知らないところで会われるのと、一緒に行くのと」

「……〜〜っくそっ!」

「はい、決定。じゃ明日、お見舞いしに行こうな!」

決まりとばかりにアスカはぱちんと両手を合わせて、明日の予定に優子の見舞いを組み込む。悪態をつく錦山を他所にアスカはお勘定をするために手をあげて店員を呼んだ。

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