龍が如く1
04:秘密を君に
桐生と合流し、傷だらけな二人にアスカは苦笑した。お互いを思い合った故の傷だが、少々痛々しい。
「ーーよし、ラーメンでも食いにいくか!」
「いやいや、その前に怪我の治療が先だっての!そのままで行ったら店主が驚くだろうが!」
怪我のことなど気にもせず、ご飯を食べに行こうと提案する錦山を慌てて止めた。流石に鼻血やら其処ら中に付いた血をそのままにするのはよろしくない。せめて血くらいは拭うなりなんなりするべきだ。
「んなの誰も見てねぇって!おら、行くぞ」
「おわっ!」
肩に手を回されて思い切り体重を掛けられる。桐生に助け船を求めようにも、子を見るような生温い表情をしているから駄目だ。
「街の人に怖がられても知らねぇぞ?」
「バーカ俺らはヤクザだぜ。怖がられてなんぼだろ」
「二人はそうかもしれねぇけど、俺はただの情報屋なんだけどなぁー」
もう、と不満げな声を出しながらも、顔は緩む。
この二人といるのはとても居心地がいい。付き合いはそれほど長くないけれど、何故だかこれからもずっと一緒にいるような気がするのだ。だから、だからこそ二人には言っておきたいと思った。
「……なぁ。俺さ、二人に秘密にしてた事があるんだ」
意を決して、口を開く。改まった物言いに錦山がようやっと肩に回していた腕を離してくれた。数歩前に進んでから二人に向き直る。
本当は少し言うのは怖い。もしかしたら、小学生の時のように気味悪がられるかもしれない。親友を撤回されるかもしれない。考えただけで心がずきりと痛んだ。
「俺……」
決心したつもりだが、やはりうまく言葉が出てこず口ごもる。視線を落とし、ぎゅっと手を握りしめた。深呼吸をひとつして、気持ちを落ち着ける。
「俺、サイコメトリストなんだ」
初めて他人にその事を告げた。
顔は上げられなくて、自分の爪先をじっと見つめたまま二人の反応を待つ。緊張で異常な程に分泌された唾を飲み込んだ。
「……………………」
「……………………」
「……………………?」
長い沈黙にアスカはおずおずと顔を上げた。無反応もそれはそれで怖かった。錦山も桐生も気味悪がるような事はなく、どちらかというと不思議そうな顔をしている。
「……サイコメトリストってのはなんなんだ?」
想定していない反応にアスカは硬直した。桐生って頭良さそうな顔をしているわりには意外と無知だ。知らない人からすれば何それって感じだろう。それより知っている前提で言ってしまったのが恥ずかしくて頭を抱える。
「あー……人とか物とかに触れると記憶や感情が読み取れるってやつ」
やや間を空けながらも簡単に説明する。桐生は納得したようなしていないような微妙な顔をしていた。
「テレビで聞いたことあるぜ。サイコメトリーってやつだろ?本当なら信じらんねぇけど……さっきのもそれだったんだな」
「あ、あぁ。そうだよ」
「すげぇ力だな。羨ましいぜ」
気味が悪いと言われなかった。錦山は気にした様子もなく、あぁ腹が減った、とお腹を撫でている。あまりにもあっさりとした反応にアスカは呆けた。
「そ……そんだけ……?」
「あ?何だよ」
「もっと気持ち悪いとか……ないの……?」
両手を握りしめて、おずおずと尋ねる。
「何で気持ち悪いってなるんだよ。なぁ桐生」
「あぁ」
弾けるように錦山と桐生を見た。
子供の頃にアスカが悩んでいた事なんて、些細な物だったのかもしれない。そんな風に思えるほど二人の反応は軽かった。逆にそれが嬉しくて、自然と笑みが漏れた。
「へへ、ありがと」
こいつらとどこまでも行けたら、嬉しいな、なんて。そんな儚い夢を胸に抱いた。
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