龍が如く1
03:狙われた兄弟3
深呼吸をひとつ。荒れた息を整えた。この場に立っているのはアスカと錦山の二人だけだった。流石にこの数を相手にするのは骨が折れた。口元から溢れた赤をスーツの裾で拭う。
「おい、テメェ!桐生はどこにいるんだ!?」
錦山の怒声に振り返った。満身創痍な横田の胸ぐらを掴み、錦山は乱暴に揺すっている。あまりの強さに横田は白目をむきかけ、今にも気を失いそうだ。
「彰、そういうのは俺に任せてくれよ」
「何かいい方法でもあんのか?」
「まあ、見といて」
地面に落とされて苦しげに呻いた横田のそばに膝を付き、腕に触れる。じわりとアスカの中へ横田の記憶が溶け込んでくる。その中から必要なものだけを探した。
「よしーー」
真新しい記憶程、サイコメトリーは容易い。立ち上がったアスカに錦山と横田の二人ともが呆ける。
「何がよし、だよ!ちゃんと聞き出したのか?」
「あー……まぁな。児童公園だってよ。なぁ、横田さん」
確かに周りから見れば何もしていないように見えてしまっただろう。言葉を濁して、アスカはなるべく自然な動作で横田の顔を覗きこんだ。ひっ!と喉をひきつらせて、横田は何度も首を上下に振る。
「ほら。行こうぜ」
「おう」
錦山はやや納得いかなそうな顔をしていたものの、ほらほらとアスカが促すと何も言わずに着いてきた。
児童公園にたどり着くと、死屍累々が広がっていた。到着が少し遅かったらしい。そこに桐生の姿はなかった。くそっと彰が悪態をつき、男の胸ぐらを掴みあげる。
「おい!起きろ!桐生は無事なんだろうな!?」
「ひっ!錦山!?ってことは向こうも失敗したのか!?」
乱暴に揺すられて目を覚ました男は自分を掴む錦山の姿を見てぎょっとしていた。向こう"も"ということはこちらも失敗したのだろう。そんなことは現場を見れば明らかだが。
「あいつ始めは黙って殴られてたのに、俺らが約束を反故にするってわかった途端に……!」
「流石兄弟だな……。おい、俺も桐生も十分ケジメは付けたつもりだ。でもまだ文句があるってんなら……いつでも来いや」
ーー気が済むまで相手してやる。
言いたいことを言ってから錦山は男を地面に落とした。落とされた衝撃にぐ、と男が呻く。男の顔を見下ろして錦山はにやりと笑った。
「皆にも伝えとけ。あばよ」
男の反応を見ることなく、錦山はアスカの方に振り返った。
「おし、アスカ、行くぞ」
「おう」
吹っ切れた顔をしている錦山を見てアスカは笑みを浮かべた。堂島組の奴らもこれに懲りて、少しはマシになるだろう。
「……さあて、俺の勘がが正しければそろそろ」
児童公園から離れて、適当にぶらついていると錦山のポケベルが鳴った。
「"1052167"だとよ」
「一馬もやっとポケベル使いこなせるようになったんだ」
ちょっと前までは受けるばかりで送って来なかったのに。不器用な友人の成長にアスカと錦山は顔を見合わせて笑った。
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