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龍が如く0

16:逃亡


振りかぶられたバールを避け、米神に右ストレートを決めた。白目を向いて倒れたホームレスを見下ろし、アスカは胸を撫で下ろす。ようやっと4人を倒せた。佐川の手下だけあって、外見とは裏腹にかなり手強かった。

苦しげに呻く闇医者に李が駆け寄り、容態を確認する。

「……中国人同士の絆より、金か……ワシは確かにお前にそう言うたな。せやけど死んだら……せっかく手にした金使えんやろが……ドアホ」

呆れたように、しかしどこか悲しむように、李は闇医者を叱った。

「李……まだ終わっとらんで。……他にも佐川の手のモンが駆けつけてくるはずや。そいつはほっとけ。あんたを裏切った男やぞ」

真島の言葉を無視し、李は闇医者の傷の手当てをし始める。

「このままほっといたら……こいつ、死んでまう」

「助ける、いうんか?」

確かに傷の深さと出血量から考えて、このまま放置していたら誰にも気づかれずに死ぬだろう。とはいえ、アスカ達も時間がない。一刻も早くここから逃げなければ、佐川の追っ手がきてしまう。

「お前ら、マコトを連れて早よここを出ろ。ワシはこいつを、雀薔薇屋に連れていかな」

「いいのか?」

「後で合流する。……お前らはマコトと一緒にほぐし快館に行け」

予想外の言葉に真島が何故?と問う。そこに車があるのだと李は答えた。確かに盲目のマコトを連れたまま走って逃げ切るのは難しい。車があれば追っ手を振り切れる可能性はまだある。

「な、何が起きてるの……?李さん……!」

助けを求めるように叫ぶマコトの腕を真島が掴む。

「李さんは後で合流するから、今は俺たちで逃げるよ!」

「全部、私のせい……?ごめんなさい……私のせいで、ごめんなさい!!」

泣きながら謝罪するマコトに真島は何も悪くないと励ます。誰もマコトの事を責めるつもりはない。悪いのは狙ってくるヤクザだ。

「マコトを……頼むで」

「あぁ。必ず守るよ」

李の言葉にアスカは頷いて、先導するように倉庫を出る。

倉庫を出てすぐの空き地にもすでに追っ手が迫っていた。即座にマコトを下がらせて、アスカと真島であっという間に伸した。路地を抜け、最短ルートでほぐし快館へ向かおうとしたが、ヤクザが数人がかりで周囲を見張っている。

個々の強さはそれほどでもないが、如何せん数が多い。下手に戦うとマコトの負担になるし、危険も増える。なるべく見つかるのは避けたい。時間はないが仕方なく、回り道を通ることにした。

この前とは違い、顔の割れてないアスカが先行し、真島がマコトの手を引く。

「今だ、こっちに……!」

人混みに隠れる真島たちに合図した。招福町の横丁へ入り、南下すればほぐし快館へたどり着ける。細い通路を進んでいた時だ、横から突然近江連合のヤクザが駆けてきた。

「見つけたでぇ!おら!死ねや!!」

「クソ……」

振りかぶられた鉄パイプを腕でガードして、即座に攻撃を繰り出してヤクザを蹴り飛ばした。

「おい!大丈夫か!?」

真島が戦おうとしたのをアスカは手で制止する。

「アンタはマコトちゃん連れて、先に逃げろ。この調子じゃどんどん来る」

「けどお前……」

「いいから逃げろ。最悪俺のことは見捨てろ。わかったか?」

「……分かった。頼んだで」

頷いて、小さく笑った。背中を通りすぎていく二人を見送らずに、アスカは目の前に立ちはだかる男達を睨み見る。

「……ほんとに、柄じゃねぇことしちまったな」

けど、仕方ねぇな。ぼやきながら、拳を構え、向かってきた男達に攻撃を仕掛けた。

男達との戦闘中、音が軽減された破裂音が聞こえた。悲鳴を上げて倒れた男たちにアスカは瞠目したが、その先に立っていた男を見て納得した。サプレッサー付きの銃を構えていた男は素早く悲鳴をあげる男たちを銃で殴打し、気絶させる。しん、と静まり返った場所で、アスカは男へ歩み寄った。

「大丈夫か?」

「俺は、ね。ちょっと遅いですよーー」


ーー世良さん。




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