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龍が如く0

08:決意


真島がいない間にやらなければならない事がひとつある。アスカがここに来た理由だ。流れとはいえ、まさか彼女を保護することになってしまうとは思いもしなかったが……。彼女に一言かけてから、アスカは倉庫を出て、すぐ近くの公衆電話へ足早に向かった。

「お久しぶりです。あなたが求めてた情報見つかりました」

電話口の向こうの主は一言、そうか。とだけ発する。それには気にせず、アスカは言葉を続けた。

「場所はキャバレーオデッセイの旧倉庫。そこにマキムラマコトはいます」

『流石だな』

「……ありがとうございます。 後一つ貴方に伝えておきたいことがあるのですが、どうやら彼女を狙っているのは堂島組の若頭補佐だけではないようです」

真島もマコトを狙っていた。バックにいるのは佐川だ。

アスカは神室町専門の情報屋だから詳しくは知らないが、記憶が確かなら佐川司は近江連合の所属だったはずだ。その佐川が彼女を狙う理由がよくわからない。

「近江連合の佐川司。彼も手下を使って彼女を殺そうとしていました」

『近江連合の佐川か……』

「手下の名は真島吾朗。ご存じですか?」

考え込むような声にアスカは問う。

真島自身は今はカタギだと言っていた。つまり昔はヤクザだった。関西弁を話していたし、てっきりアスカは近江連合のヤクザだと思っていたのだが相手の反応を聞く限り違うようだ。

『真島は昔嶋野組にいた男だ』

「嶋野組……?なぜ、近江連合に……」

嶋野組は東城会の傘下だ。その部下がどうして近江連合のもとにいるのだろう。

『それを調べるのがお前の仕事だろう』

相手の言葉に返せない。痛いところをつかれ、アスカは苦い顔をする。

まだまだ情報屋としての力不足を否めない。

「仰る通りです……方々から彼女を狙う人間が現れているので、早い目に手を打った方がいいかもしれません」

『あぁ、わかっている……此方も奴らの目を掻い潜り潜入するつもりだが、もう少し時間が掛かる。お前の仕事は終わっている。無理にマキムラマコトを保護する必要はない』

確かに仕事は終わっていた。それに、アスカは情報屋だ。マコトを守る必要はどこにもない。が、ここでマコトを見捨てるのもどうにも憚られた。

「……仕事じゃないですけど、貴方に引き渡すまで彼女の傍にいます」

『いいのか?危険が伴うぞ?』

「構いません。彼女を放っておけませんから……なるべく早く来てくださいね」

『あぁ善処しよう』

相手の電話が切れたのを確認してから、受話器を置いた。天を仰ぎ見て、息を吐き出す。テレホンカードを早く取れと喚く電話機を黙らせて、アスカは公衆電話ボックスから出た。

少し話しすぎたかもしれない。早く倉庫に戻らなければ、真島が戻ってきてしまう。アスカは足早にオデッセイの倉庫に戻った。


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