龍が如く4
epilogue
神室町のとあるバーでアスカはゆったりとしたいつも通りの日常を過ごしていた。ウィスキーの水割りを飲みながら、先日の出来事を思い返す。
結局、宗像は落ちていた銃を拾って自殺した。プライドの高い宗像だ。落ちぶれて刑務所に行くのが我慢ならなかったのだろう。ここ数日の新聞の一面はどこも宗像の汚職と自殺の事を取り上げていた。
今回の伊達の働きは警視庁に称えられ、伊達は再び刑事として復帰することができたらしい。谷村も生活安全課から捜査一課ーーつまり伊達の部下になったと聞いた。それから、冴島はーー
「アスカちゃーーーん!!久しぶりやなぁ!会いたかったでぇー!!」
バーの落ち着いた雰囲気をぶち壊すような底抜けに明るい声が響き、ばしばしと背中を叩かれた。その声の主が誰なのか振り向かずとも分かる。遠慮なしに叩かれた背中が地味に痛い。隣にどかりと座る蛇柄のジャケットを着た男。
「もう出てきたのか。面会にでも行ってやろうかと思ってたのに……」
「酷いこと言わんといてや、落ち込むわぁ」
わざとらしい泣き真似をする真島にアスカは笑った。
宗像の指示で逮捕された真島は宗像の悪事がばれたことで、上手く釈放されたのだ。もしかしたら伊達や須藤が根回ししてくれたのかもしれない。
「もう聞いてるかもしれないが、靖子ちゃんのことは護れなくて悪かった」
答えを聞くのが少し怖くて、アスカは気を紛らわせるように酒を呷った。真島が沈黙し、二人の間にクラシックミュージックだけが響く。
「……」
ふわりと香るタバコの匂いにアスカは視線を真島へと向けた。口に咥えたタバコの煙を燻らせて、真島はタバコの箱をアスカへと突きだす。どうやら、吸え、と言っているようだ。箱の口から一本だけ伸びたタバコをアスカは摘まんで、抜き取った。
火をつけようと、胸ポケットをまさぐりかけたアスカの目の前へすっとライターを持つ手が差し出される。かちりと火が付けられて、アスカはそこに咥えたタバコを近づけた。
「……悪いな」
タバコの煙を吸い、吐き出した。紫煙が視界を曇らせる。
「……靖子ちゃんのことは……そない悩まんといてくれ。アスカちゃんが兄弟と一緒に帰ってきてくれただけで十分や」
「だが……」
「極道なったときから、喪うことの覚悟は出来とる」
真島の言葉に目を伏せた。
覚悟。真島から発せられたそれの重みは並大抵では無いことをアスカは知っている。そして、アスカを責める事なく、許そうとしていることも分かった。
「ありがとな……吾朗」
「ヒヒ……エエんやで」
真島をよく知らぬ人からは表面上だけ見て狂犬だのクレイジーだの言われているが、本当の彼は優しく、真面目である。その優しさがとても温かくて、つい甘えてしまうのだ。
例え世間から爪弾きにされている極道だったとしても、アスカは真島が好きだ。それは嘘偽りのないアスカの気持ちだ。本人に伝える気は全くないが。
「せや!ウチの組総出でやる兄弟の襲名記念パーティー!アスカちゃんもおいでや!」
思い出した、と言うようにぱんと手を叩いて、真島はにまりと笑った。
冴島は新たに出来た東城会直系の冴島組を襲名したのだ。あの伝説の18人殺しが葛城による物だったとしても、ついこの間までは信じられていたし、今も信じているものもいるだろう。冴島が組長になっても、反対する者はいないはずだ。
「吾朗提案なら派手なパーティーになりそうだな」
「派手にやるで!今からワクワクしとるんや!」
で、どうや?と聞いてくる真島にくすりと笑みを浮かべて、アスカは頷いた。
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