龍が如く2
18:有終之美
巨大な工事用エレベーターで爆弾ごと上がっていく彼らを追いかけて狭山が走り出すのを見送ってから、アスカは陰から出て倒れた二人の容態を確認した。
血で汚れるのも厭わず、郷田の身体に触れる。苦し気な感情が伝わってきたため、辛うじて生きているのが分かった。次いで寺田を確認したが何も感じられず、アスカは無言のまま目を伏せる。
「これは……」
寺田の脇に転がる金属パーツに気付いた。丸い物が連なったそれを拾い上げて眺める。爆弾の信管だ。それもかなり大型の物──ということはこれは高島が用意していた最後の爆弾の信管という事になる。
寺田は端から高島の事を信用していなかった。これはその証明。爆弾のガワを起動させたのは高島の動揺を誘うためだったのだろう。東城会への復讐心を持ちながらも、最期は共に復讐を誓った高島ではなく桐生を信じた。どれだけ冷徹さを演じようとも、心根は恩義を忘れられなかった訳だ。
手元で信管を転がしながら、アスカは頭上を見上げた。どちらが龍に相応しいかという下らない戦いは早くも終わったようだ。微かに聞こえていた音はもう止んでいる。
あれだけ撃たれた後に暴れて、怪我が悪化してなければいいのだが。救急車を呼ぶべく携帯を操作しながら、アスカはゆっくりと階上へと続く階段を上り始めた。
◇
最上階に辿り着いた頃には何もかも終わっていた。
爆弾が本物だと思い込んでいる桐生と狭山は死を覚悟して、完全に二人の世界に入っている。熱い抱擁、絡み付くようなキス。見ているこちらが恥ずかしくなるくらいのいちゃつきぶりだが、あの恋愛下手な桐生の珍しい姿は見逃せない。どうせなら写真に納めてやろうかと邪心が頭をもたげたが、流石に可哀想だと考え直して肉眼に焼き付けるだけにした。
そうしている内にカウントダウンはもうまもなく終わりを告げようとしていた。秒数だけになったデジタル文字を横目にアスカは二人に忍び寄る。炊き立てのご飯よりも熱々の二人を邪魔するのは悪いけれども、銃弾を受けて重傷な人間もいるわけだし一刻も早く手当てが必要だろう。事態はわりと深刻である。
「あー……お熱いところ悪いけどさ、この爆弾、信管が入ってないから爆発しないよ」
様々な角度で呆れるほどにキスをし合う二人にアスカは生温い笑みを浮かべながらタイミングを見計らって声を掛けた。二人の空間に割り込んだ第三者の言葉に二人は勢い良く振り返り、アスカに気付くとみるみるうちに顔を真っ赤にして取り繕うように互いに距離を取る。
「っていうか、爆薬も入ってないしガワだけの爆弾みたい。寺田は端から爆発させるつもり無かったんだろうな」
二人の初々しさまである反応には敢えて触れずに、アスカはのんびりと爆弾を検分しつつ会話を続けた。
「あっ!救急車は呼んどいたから後はごゆっくりどうぞ!お二人さん!」
「お、おい待てアスカ──!」
「ちょっと一馬、急に動いたら──!」
「ぐっ、ごふっ……」
「きゃっ……と、吐血!?しっかりして!!」
情緒もロマンティックも一瞬にして消え去って、騒がしさを取り戻す二人にアスカはけらけらと笑いながら、桐生の止血にまわった。
-fin-
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