- ナノ -

龍が如く4

12:タバコの紫煙


1000億をミレニアムタワーに移動させ終わるまで、暫し時間ができたアスカ達はセレナで暇を潰していた。何せ額が額だ。小切手ならまだしも現金1000億。運び終わるのはそこそこ時間がかかりそうだ。

セレナのカウンター席に座り特にすることもなく、アスカは秋山と話していた。

「アスカくんってタバコ吸うんだね」

「ん?変か?」

「うん。意外っていうか……吸わなさそうな雰囲気してる」

胸ポケットから少しだけ顔を覗かせているハイライトのケースを見ながら、秋山が言った。何となく胸元からタバコを取り出す。青い色に白い文字の見慣れた箱にはまだそれなりに本数が残っている。

その内の一本を取り出して、口に咥え、ライターで火を点けた。

「ま、確かに嗜む程度しか吸わねぇな」

タバコの箱を手の中で遊びながら、小さく笑う。元々タバコはあまり好きではなかったが、周りが皆吸っていたから何となく自分も吸い始めた。理由なんてそれくらいだ。

考え事をするときに時々、手持ち無沙汰で吸いたくなるのだ。

「お前はそればかり吸っているな」

「ん?そうだな……これがいいんだよ」

会話に入り込んできた桐生は、アスカの隣の左隣の席へ腰掛けた。手元のタバコを見やり、少しだけ寂しげな色を帯びたのをアスカは見逃さなかった。

「……その香りをかぎながらここに座って目を閉じるとあいつが隣にいるような、気分になる」

誰の事を言っているのか、分からないアスカではない。すぐには返事を返さずに、アスカは煙を燻らせて、虚空をぼんやりと見つめた。

初めてタバコを吸ったのは、錦山に貰って吸ったんだったなと思い出す。同じ匂い、同じ場所ーー違うのは一人足りないことだけだ。

「……そうだな」

多分忘れたくなかったのだと思う。

どれだけ傷付けられても、嫉妬に狂ったとしても、錦山は桐生にとっても、アスカにとっても大切な存在だった。だから、タバコの香りで錦山の影を追うのだ。忘れないように。

ふぅ、とタバコの煙を吐息と共に吐き出した。

「ーー悪い、しんみりさせちまったな」

切り替えるように秋山に笑いかけた。何も知らない秋山や谷村がいるところでする話でもない。匂いを消すように、灰皿にタバコを押し付けた。

「アスカくん……って何歳なの?」

「は?」

全く関係のない事を聞かれて、アスカは一瞬思考を停止させる。

「いや、俺、ずっとアスカくんは俺より年下だと思ってたんだよね……でも、真島さんとか桐生さんとかと知り合いだし、話聞いてたらさ……もしかして俺より年上だったりする?」

成る程。だから、秋山はずっとアスカに対しタメ口を使っていたのだろう。元々アスカは年齢差で敬語、タメ口の使い分けを気にするようなタイプではないし、真島とは8歳も差があるがお互いタメ口で話している。

「因みになんだが、秋山さんは俺のこと何歳だと思って接してたんだ?」

「谷村くんと同じかちょっと上かなってくらい」

谷村は今29歳だ。まさか10歳近く若く見られているとは思わず、笑いが漏れる。

「はははっ!そんなに若く見られてるんなら俺はまだまだおじさんじゃねぇかな?」

「よかったじゃないか。かなり若いぞ」

話を聞いていた伊達がグラスを磨きながら笑っている。桐生もほんの少し口角を上げている。3人の反応でアスカの年齢を何となく察したらしい秋山はアスカの顔を凝視した。

「俺ももう38歳なんだよなぁー……」

15歳から情報屋の仕事を始めてから、今まで定職に付くことなく、何となくでよく生きてこれたと思う。

「じゃあ、話し方も改めないと、ダメかな」

「そのままでいいよ。今から変えられても違和感しかないし」

秋山から敬語だなんて、違和感だらけでトリハダが立ちそうだ。

「ならこれからもこのままでよろしく、アスカくん」

「よろしくな、秋山さん」

秋山から差し出された右手をアスカもしっかりと握りしめる。より秋山と仲良くなれてアスカはにっこりと笑みを浮かべた。


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