- ナノ -

龍が如く2

09:邪智暴虐


※BL、R18性的表現有



何日経っただろう。ぐちゃぐちゃになった意識ではそれすらも判然とせず、永遠に続いているような絶望感があった。
シーツを素肌に巻き付けて、アスカは震える。足の間から白濁が流れてくる感覚にかきむしりたくなった。

「ぅえっ……ううぅ……」

喉の奥から溢れ落ちてくるものも同じ白色だ。気持ち悪くて吐き気が止まらない。ぜえぜえと荒い呼吸をしながら、アスカは涙を流した。

「──アスカさん」

いつの間に部屋に入ってきたのか。その声が聞こえた瞬間に身体が硬くなる。

「今日は大事な用事がありましてね。アスカさんも同席してもらおうかと……まずはその身体を綺麗にしましょうか」

「……ゃ、」

「我が儘言わんでください。そんなアスカさんも可愛いですけどね」

ベッドの端に逃げようとする俺を簡単に捕らえて、シーツごと抱え込む。弱々しい抵抗は意味をなさず、新藤は愉悦を含んだ笑みのままアスカの下部を撫でた。

「っひっ……!」

敏感になったそこは少し触れられただけで反応してしまう。それが新藤を興奮させてしまうとわかっていても自分の意思では止められない。痛くない程度に握りこまれ、上下に扱かれる。ぞわぞわとした感覚が背筋を走り、思わず高い声が漏れた。呼応するように新藤の手の動きが激しくなる。

「ぃやだ、やだ……イキたくなっ……イッ……」

感じたくないのに──身体がビクビクと痙攣して頭の中が真っ白になった。

「っあぁぁあああ……!」

先から噴き出した白濁がベッドを汚す。脱力した俺を軽く抱き締めて新藤は薄く笑んだ。

「残念ですがこの続きは俺が六代目になるまでお預けです」

「はぁ……は……」

「さ、風呂に入りましょう。アスカさん」

動けないアスカの身体を新藤は懇切丁寧に洗い、新品の黒いスーツを着せてきた。
ちゃんと綺麗にしないと、と中を執拗に攻めるように弄られて風呂の最中も何度かイカされた。その余韻が未だに身体に残り、中がずくずくと疼く。簡単に快感を拾ってしまうこの身体がつくづく嫌になる。

どこかへと向かう車内で上気した呼吸するアスカの肩を新藤が抱いた。されるがままに新藤の胸元にしなだれ掛かる。運転席にいる新藤の子分が居心地悪そうにちらちらと此方見ていた。

「今から五代目の葬儀です。まあアスカさんには言わなくてもわかりますか?」

つまり東城会本部。聞いてもいないのに新藤は行き先を伝えてくる。確かに言われなくとも分かるが、アスカは何も答えずに押し黙った。

こんなところまで錦山と同じなんて。
あの時は世良だったけれど。

それに新藤が腹に隠している物も視えた。新藤は東城会を裏切ろうとしている。近江連合の千石に金で買収されて。よりにもよって近江連合に手を貸すなんてタチが悪すぎる。

「しんどう……」

「ふふ……楽しみですね。アスカさん?」

不穏な空気を乗せて、車は東城会に着いた。準備係の下っ端組員や、他の組の連中が新藤の顔を見て頭を下げる。腹の底はともかく、新藤も腐っても組長という訳だ。知っている顔がいないかと探したが、どの顔も覚えがない。この場に真島が居てくれればと思ったが、真島組は少し前に東城会と袂を分かっていた。寺田の葬儀には来ないだろう。

「アスカさん、まさか逃げようなんて思っちゃいませんよね?」

「……!そんな、つもり……」

「そりゃ良かった。俺も安心です。貴方に痛いことはしたくないですから」

反射的誤魔化したが恐らく新藤にはバレていた。薄く嗤いながらアスカの頬を撫でてくる。その指先から伝わる感情にアスカは戦き、身体を震わせた。

本部の入り口手前、パイプテントの前で一人の組員がこちらに頭を下げる。

「新藤組長、此方へ記帳お願いします」

芳名帳に新藤が記入する後ろでアスカはただぼうっと立ち尽くす。折角脱出のチャンスだというのに、どうすることも出来ずただ震えている事しか出来ない自分が憎い。

受付を済ませて中へと入る。東城会の五代目会長の葬儀は三代目と同じように豪勢だった。壁一面を埋め尽くすように並べられた生花の独特な香りが漂ってくる。肉付きの良い鼻の大きな鼻の男の遺影──一方的に顔は知っているが、世良と違って寺田とは面識がない。アスカとしては死んだとしても何の感慨もないが、東城会への影響はかなり大きいだろう。

静かに吐息を漏らし、目を伏せた。心のこもっていない形だけの新藤の作法を一歩後ろで終わるのを待つ。

「お待たせしてすみませんね。欺くためのパフォーマンスは大事ですから」

「……」

「それじゃあ暫くショーが始まるまで空き部屋で待ちましょう」

腕を引かれるまま俺は誰のいない部屋に押し込まれた。





豪華な客間で何時間過ごしただろう。窓から差し込むのは日差しではなく、月明かりに変わっている。

一時外が騒がしかった時もあったが、この部屋からでは騒動の原因までは分からなかった。新藤は千石組との手回しに忙しかったらしく、想像していたようなことはされずにすんだ。

ソファに深く腰かけて、アスカは俯いていた。意味もなく指先を絡めて、新藤に聞こえぬよう息を吐き出す。普段は黒い革手袋に覆われている白い指先には蚯蚓脹れのような傷痕が深々と残っている。痛みはもうないとはいえ、その時の記憶は忘れることはない。

「親父」

控えめなノックの後、新藤の部下が入室した。言葉は無かったがそれだけで全て理解する。

「さ、準備が整いました。会議室に向かいましょう」

新藤が立ち上がり、俺の腕を掴んだ。引き摺られるようにして新藤と共に客間を出た。落ち着いた色のフラシ天が敷き詰められた廊下には組員達が集まっている。そのスーツの胸元には皆、錦山組の代紋が付けられていた。人数はかなり多く、彼らの手には銃やドスが握られている。

アスカの知らない間に錦山組もかなりの勢力になったらしい。東城会でなくてはならないくらいに。

側近らしき男が新藤に刀を差し出す。新藤はそれを受け取り、鈍く光る刀を肩に掛けて部下に号令をかけた。素早く部下は散り、数人は新藤の元に残る。密着している訳ではないが周囲に人が多い状況に堪えられず、全身がカタカタと震えだす。脚から力が抜けて崩れ落ちた。

「大丈夫ですよ、アスカさん。俺がいますから」

「……、」

その原因は新藤のせいなのだが、戦慄いた唇からは何の音も漏れずに終わる。片手で身体を抱えあげられて、そのまま連れて行かれた。

艶のあるコーティングのされた両開き扉の前で新藤は部下に目配せした。その扉の先は東城会直系の組長が定例会議をする場所だ。つまり幹部連中が集まる場所である。

どん、と荒々しく扉を蹴り開けて、新藤は片手に持つアスカを投げつけた。

「──っうぅ!」

誰か知らない幹部を巻き込んで、地面に転がる。質の良いカーペットのお陰で人にぶつかった衝撃以外ダメージはない。

「新藤、テメェどういうつもりだァ!!」

「見ての通りですよ、柏木さん」

荒々しい怒声が響き、アスカは身体を縮こまらせた。頭を抱えて震える。またトラウマだ。何も出来ない、動けない。助けを求めることさえも、何も。

「……アンタ……カタギまで巻き込んで、こんなことしてどうなるかわかってるのかい!?」

「おっと……動かんでください。まだ身体に風穴開けたくないでしょう?」

「お前っ……!!」

新藤の部下が横並びで銃を向けた。誰もが動きを止め、新藤を睨む。

だが、誰もどうすることも出来ないまま新藤に制圧されてしまった。



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