- ナノ -

龍が如く2

07:心的外傷


※BL、首絞め表現有



薄く目を開く。頭が重く、はっきりとしない意識の中で、アスカは場所を理解しようと努力した。が、見える天井に覚えはない。

とにかく身体を起こそうと腕に力を入れようとしたが全く力が入らず、何とか首だけを動かして状況を確認する。落ち着いた色味の壁に、テレビがひとつ。家具の配置からして良くあるビジネスホテルの一室のようだ。

「…………、」

気を失う前の事を思い出して、呼吸が止まりかけた。

しんどう。新藤が、俺を。こわい、怖い恐いコワイ怖い。

頭の中であの恐ろしい日々がフラッシュバックする。ここには誰もいないというのに、身体をなぞる指先の感覚があって吐き気を催した。嫌だ、止めてくれ。もう嫌なんだ。全身の震えが止まらない。

振り払えない恐怖心がアスカから正気を失わせる。耳元で聞こえる息づかい、そして生温く呼ばれる名前を聞きたくなくて両手で強く耳を塞ぐ。それでも止まらない。ずっとずっと頭の中に響く。
身体に染み付いた幻聴が、終わることのない悪夢を生み出してアスカを蝕み続けた。

「……たすけ、て……」

その声は誰にも届くことなく消えて、そして再び悪夢は繰り返される。ギィ、と扉の開く音がしたような気がした。

「おはようございます。アスカさん」

「ぁ……あ……」

耳を塞ぐ手を掴まれて強引に外された。そこでようやっと新藤の存在に気付く。幻覚ではない、本物だ。より一層身体が震えた。そんな様子に新藤はくつくつと笑って、アスカの身体に跨がってくる。笑う相手を見上げる。幾度となく見た光景だ。そしてその後に待っているのは──

「やめて……やだ、いやだ……」

片腕を捕まれたままで碌な抵抗もできず、アスカはただ言葉を繰り返し首を振る。

「怖がらなくても大丈夫ですよ。俺は大事にするといったでしょう?」

冷えた指先が顎のかたちを確かめるようになぞった。新藤の言葉の羅列はひとつも耳には入らない。ただ音として届く。こわい。怖い。片腕で新藤の胸を押し返そうとしたが震えたそれではどうにもならなくて。

「アスカさん……」

顎先を掴まれて、抵抗する間もなく唇を奪われる。舌先が唇を割り、口内に侵入し歯をなぞった。それでも何とか抵抗しようと歯を食い縛り、耐える。

不意に首筋に指が掛かった。

「ぁがっ──」

片手でも鍛え上げられた肉体の力は意図も容易くアスカの呼吸を阻害する。息が出来ず、苦しさに口を開けた瞬間、新藤の舌がアスカの口腔を蹂躙した。首を絞められたままキスを続けられる。抵抗なんて出来やしなかった。涎の混ざりあう下品な音だけがその空間を満たす。

「──ふふ、可愛いですね」

気絶するギリギリのところで新藤はアスカを解放した。涎が溢れるのも気にせず、アスカは足りない酸素を補給するために大きく呼吸をする。新藤はぜぇぜぇと苦しげに涙を浮かべるアスカを優しく撫でてきたがただただ気持ちが悪い。気分が悪い。けれどここで下手な真似をしたら、またヤられるかもしれない。押し倒されて気のすむまでされるのはいやだ、怖い。彰の機嫌を損ねたら、だめだ。

思考回路がぐちゃぐちゃになって、うまく判断が出来ない。目の前にいるのは誰?新藤か、錦山か。それさえも曖昧で。

「あぁやっぱり、アスカさんを前にすると我慢できそうにない」

「っぁ……!」

形を確かめるようにズボンの上からなぞられて、思わず声が出た。錦山に調教された身体は意図も容易く反応してしまう。それがどれだけ嫌な行為だったとしても、防衛本能として受け入れようとする。

「案外乗り気なんですねぇ……じゃあ俺も気兼ねなくヤれそうだ」

くつくつと笑う声が聞こえたと思ったら、あっという間にズボンをずり下ろされて下半身を露にされた。外気に晒された下部を脚で隠そうとしたが、乱暴に身体で防がれる。

「さぁアスカさん一緒に気持ちよくなりましょう」

ただぼやけた視界の中でアスカはただ身体を弄ばれていた。



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