龍が如く2
06:悪夢再来
相変わらず、東城会と関西の組織、近江連合の折り合いは頗る悪いらしい。つい先日も東城会の五代目寺田が襲撃されたと聞いた。もう情報屋をやめたというのに外に出ると情報を集めてしまうのは癖だ。
それにしても、少し前からどうにも神室町はどこか騒がしい。聞こえる外国語に眉を潜めながら、俺はなるべく周りの人と距離を取るように一歩を踏み出した。真島に連れ出されたのを切っ掛けに、こうして街に繰り出すようになったが元のように歩けるには時間が掛かりそうだ。
「いつまでも、こうしてるわけにもいかない、が……」
ため息を吐き出した。いつまでもニート極めてる訳にはいかない。貯めたお金はあるとはいえ、少しずつ切り崩せばいつかはなくなる。俺が困ってると知ればきっと真島は助けてくれるとは思うが、他人に金銭で頼るのはポリシーに反する。そうなる前には金を稼ぐ手段を見付けなければ。
店先に貼り出された求人広告を流し見して、再度ため息をついた。
「は、」
気を抜いていたその瞬間、地を揺るがすような爆音が響く。顔を上げると神室町の中央にあるミレニアムタワーの最上階近くが火の手を上げていた。未だにバクバクと喧しく拍動している胸を押さえながら、呆然とその光景を見つめる。
あそこには何があっただろうか──
「風間組の、事務所だ……」
柏木修が纏める風間組が居を構え始めたのはつい最近の話だったはずなのだが。あの爆発では正直あそこにいた人間の生存は絶望的だろう。
かつん──靴の踵がやけに大きく響いた。視線を正面に戻す。そして目を見開く。半開きの口から声にならないくらい掠れた声が漏れでた。
「……し、んどう……」
「アスカさん久しぶりですね。会いたかったんですよ」
新藤は錦山と良く似た白いスーツを纏っていて、それがアスカの辛い思い出を掘り起こす。呼吸が浅くなり、上手く酸素が供給出来なくなる。
後退しようとするも足が上手く動かず、尻餅をついてしまう。酸欠で目の前が眩んだ。シャツがしわばむのも気にせず、胸元を握りしめて正しい呼吸をしようとするも、彼の幻聴が邪魔をする。
「あぁ、アスカさん。俺はずっとアンタが欲しかったんです……親父がいたときから」
頬に触れる手は錦山をダブらせた。
「安心してください。俺は親父のように酷いことはしません。大事にしますよ……」
籠の中の鳥のようにね──
酸欠と恐怖で朦朧としていたアスカが最後に見たのは錦山と良く似た笑みを浮かべる新藤だった。
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