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龍が如く4

09:真実と裏切り


傷だらけの冴島とアスカとイワン、真島組の構成員だけでは上野誠和会の猛攻撃に耐えることは出来なかった。全員敢えなく倒され、地に伏した。激痛が全身に走り、身体を動かすことすらままならない。花屋までぼこぼこにされ、倒れている。

冴島は膝をつかされて後ろ手に鎖で縛られ、男二人に押さえつけられている。ロープでない辺り、冴島の事をよくわかっているようだ。

葛城は下卑た笑みを浮かべ、冴島を見下す。辛うじて意識は飛ばさなかったものの何もできぬ自身が不甲斐ない。這いつくばったまま、アスカは苦虫を噛み潰した。

「お前の目的は何なんや!俺のこと拉致して何になるんや!」

怒りを露にしながら、冴島が吠える。もう襲われないと分かっているからか、葛城は余裕を持った表情でにやりと笑った。

「まあ心配するな。すぐにアンタを殺そうってわけじゃない。アンタにはまだ生きていてもらうよ」

「どうせ殺すんやったら、早よ殺れや。こないにまどろっこしい事して時間使うくらいやったら……いっそ死んだ方がマシや」

アスカは顔をしかめた。死んだ方がマシだ、なんて靖子が聞いたら悲しむだろう。

思わず、手に力が入った。

「ほう、随分と潔いな。覚悟はできていると」

「当たり前じゃ、ボケが。俺は死刑囚や。25年前のあの日……18人も殺した時から覚悟はできとる」

それを聞いた葛城は可笑しくてたまらない、というように笑い出す。そして葛城は話した。25年前の事件の衝撃の事実。

「お前は誰ひとり、殺していない」

「何言うとるんや……?」

真島から聞かされていた話と違う。当然18人殺した筈の冴島も訳が分からず、眉間にシワを寄せて葛城を見上げた。

葛城は下卑た笑みを浮かべながら、冴島の顔を覗き込み囁くように告げる。

「俺なんだよ、18人殺したのは。お前は誰ひとり殺すことすら出来なかった、ただの間抜けだ」

それだけを聞いても、いまいち事情を把握できない。だが、それが真実ならば、冴島は冤罪で死刑囚となり、25年もの時間を無駄に過ごしたことになる。

食い付く冴島の言葉をさらりと受け流す。

「俺としたことが、ちょっと計画が狂ってしまってね。最初は警察とつるんで、この上に建ってるビルをいただくつもりだったんだが……予定を変更せざるを得なくなったんだよ。新井って男のせいでね」

「新井やと?新井ってあの城戸の兄貴分の……?どういうことや?」

「まあ事情はゆっくり話すとして……」

ここで細かい事を話すつもりは無いようだ。のらりくらりと追及をかわし、葛城は更に言葉を続けた。

「アンタと、アンタの妹さんにはまた協力してもらうよ」

「妹やと!?お前、靖子をどうするつもりや!?」

葛城の口から靖子の事が出た途端、冴島は拘束している男二人をはね除け、いきり立つ。完全に油断していたらしい葛城は驚き、数歩後ろへと下がった。

「まだそんな元気があるのか。安心しろ。アンタ達は今の俺達の生命線だ。殺しはしないさ。アンタ達と例のファイル、それに有り余るほどの軍資金さえ手に入れれば……宗像など用ナシだ」

口ぶりから今すぐに殺すつもりは本当になさそうだが、敵に安心しろと言われても出来るわけがない。それよりも、会話に出てきた"例のファイル"と"有り余るほどの軍資金"そして"宗像"。

例のファイルとやらが何かはわからないが、有り余るほどの軍資金と聞いて、以前出会った秋山の隠し金庫の事を思い出した。それに、アスカが把握できていない所で何者かが東城会を潰そうとしているようだ。

考え込んでいるとコツ、コツとヒールが床を叩く音がして、新たに誰かがこの部屋へ入ってきたことに気づく。葛城の落ち着いた様子から察するに彼の仲間なのだろう。

「どうだ?金の方は準備できたのか?」

「えぇ。スカイファイナンスの隠し金庫にあった現金1000億……無事、強奪に成功しました」

聞き覚えのある声が鼓膜を揺らす。
後ろに撫で付けた茶髪。白いスーツに、赤紫色のシャツーー冴島と共にいた筈の城戸武が、葛城の隣に並ぶ。

「お久しぶりです、冴島さん」

何食わぬ顔で挨拶をする城戸を冴島が呆然と見上げた。冴島にとっては想定外の裏切りだっただろう。

話は終わったとばかりに、冴島を引きずり無理やり連れていこうとする彼らを止めようと、痛む四肢に鞭打って身体を起こした。

「待て……冴島は連れていかせない……!」

「そんな身体でまだ戦おうってのか。仲間思いだねぇ……」

馬鹿にするように鼻で笑われる。実際、頭の悪い抵抗だと自分でも思った。けれど、せめてもの悪あがきをしたかった。真島との約束を守るために。

城戸がアスカの前に立ちはだかる。その背後で葛城が意地の悪い笑みを浮かべているのが腹が立つ。

「アンタもカタギならヤクザの喧嘩に手ェ出さないほうがいいですよ」

「悪いが、ヤクザとかカタギだとか関係ねぇよ……親友との約束を違えたくねぇだけだ」

緩く笑みを浮かべて、戦闘体勢をとった。

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