隣のクラスの錦山くん
真実。
次の日。
いつも通りの学校生活がまた始まる。一週間の始まりの月曜日は何だか憂鬱だ。登校し、友人に挨拶をして自分の席に鞄を置いた。一限目の科目を確認して、机の上に教科書とノートを纏めて出しておく。
「おっ!いたいた」
不意に教室がざわめいた。その変化に私は顔を上げ、周囲を確認する。自分に近づいてくる影に目を見開いた。
「に、ににににしきやまくん!」
「お前、どんだけ"に"を付けるんだよ」
前回もやったやり取りを繰り返す。苦笑しながらも、錦山くんはおはようと朝の挨拶をしてくれた。
「お、おはよう。そういえば、あれは喜んでもらえた?」
どぎまぎとしつつ挨拶を返し、思い出したように先日の事を尋ねた。途端にパッと表情が弾ける。
「おう!めっちゃくちゃ喜んでもらえてよ!お前に相談して正解だったぜ!本当にありがとな!」
「良かった……どういたしまして」
「本当にありがとな」
お礼を重ねられ、私は笑みを返す。こんなに喜んでもらえたなら、私も選んだ甲斐があったものだ。しかし、そこで会話が止まる。周りの雑談がやけに大きく聞こえた。
「ええと、」
「優子が、お前にって」
気まずさに何かを話そうと口を開きかけた時、目の前に薄ピンク色の二つ折りの紙が差し出される。優子。彼女の名前だろうか?クラスメイトにそんな名前の女子はいただろうか?そんな事を考えながら、受け取った。
手紙を開くと少し幼い丸みを帯びた文字が並べられている。
"うさぎさん、ありがとうございます。お兄ちゃんが無理を言ってプレゼントを選ぶのを手伝ってくれたみたいで。それなのに名前も知らないなんて、ちょっとびっくりしてしまいました。ちゃんとお礼を言いたいのであなたにも会いたいです。優子"
「お兄ちゃん……?」
一通り目を通して、ぼそりと呟いた。見間違いではない。間違いなくそこには"お兄ちゃん"と書かれている。
「おう。優子は俺のかわいい妹だぜ」
「い、いもうと……」
彼女だと思ったのは私の早とちりだったのだ。安堵というのはおかしいが、何だか気持ちが楽になった。
「そうだ。お前、名前は?優子に怒られちまって……」
私が名前を告げると、錦山くんは確かめるように名前を繰り返すとにっと笑った。
「じゃあまた。今度遊ぼうぜ!アスカ!」
名前を呼ばれて、とくりと脈を打つ。遊ぼう、だなんて。教室を出ていく錦山くんの背を見ることなく、私は赤くなった頬を隠すように俯いた。
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