- ナノ -

隣のクラスの錦山くん

偶然。2


了承したはいいものの、好きな男の彼女のプレゼントを選ぶなんて鬼畜の所業だ。だが、先程の心底嬉しそうな錦山くんの笑顔を見たら、辛い気持ちなんて何処かへ吹き飛んでいた。

触れそうで触れない。そんな絶妙な距離感を保ったまま歩く。然り気無く歩幅を合わせてくれていて、また好きなところがひとつ増えた。

「その子の好きな物とか、色とかは分かる?」

後予算とか。と訊ねると錦山くんは渋い顔をして、唸り始める。もしかしてハイセンスな彼女なのだろうか。

「好きな物は特に無さそうで……色はそうだな……ピンク色が好きだって前に言ってたぜ。予算はできれば2000円内だと助かる」

「なるほど……」

「あいついっつも来てくれるだけで十分とかいうんだよなぁ」

愚痴りながらもその表情は満更でもなさそうだ。彼女のことを大切にしているのだろう。錦山くんみたいなかっこよくて優しい人の彼女になれるなんて羨ましい。

とりあえずファンシー系の雑貨屋に入り、カラフルな商品が並ぶ棚を眺める。何が良いだろうかと悩みつつちらりと背後を確認した。可愛らしいパステルカラーの商品に囲まれて、錦山くんは居心地悪そうに視線をさ迷わせている。

「錦山くん、こんなのはどう?」

棚に鎮座していた赤いリボンを着けたピンク色のウサギのぬいぐるみを錦山くんの目の前に差し出してみる。しかし、ピンと来ないのか、錦山くんの反応はいまいちだ。

「びみょう、かな……?」

「いや……女の好みってのはわかんねぇなって思ってよ」

「女の子は大体可愛いものが好きだと思うよ」

私がいうと錦山くんはふぅんと相づちを打ちながら、ぬいぐるみを持ち上げた。かわいいぬいぐるみと、かっこいい錦山くん。興味深そうにぬいぐるみしげしげと眺める錦山くんの姿が、私にはまるで夢のように感じてしまった。

「後は実用的なのもプレゼントとしては有りかもね。ペンとかノートとか」

金額もそこまで高くないし。とチャームのついたペンを指す。私の言葉を聞きながらも、手元のぬいぐるみの方を見つめているあたりそっちの方が気に入ったのかもしれない。

「それにするの?」

私が訊ねると錦山くんは気恥ずかしそうに頷いて、足早にレジへと向かっていった。

程なくして、可愛くラッピングされた袋を片手に錦山くんは戻ってきた。その顔はどこか満足そうだ。そのまま二人並んでショッピングモールの出口まで二言、三言程度の会話のみをして歩く。

「今日はありがとな。今から渡しに行ってくる」

「今から?じゃあ急がなきゃ、だね」

エントランスで足を止めて、錦山くんが振り返った。嬉しそうにニコニコとしながら、感謝の言葉をくれる。見たこともない満面の笑顔に私も釣られるように口角を上げた。

「じゃあな」

プレゼントを大事そうに抱え、錦山くんは小走りで去っていった。その背が見えなくなるまで見送ってから私も帰宅した。消しゴムを買い忘れたと気づいたのはその夜、お風呂に入っていた時だった。

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