- ナノ -

隣のクラスの錦山くん

偶然。1


それから数日が過ぎた。
錦山くんとの関係性に進展があるわけでもなく、いつも通りの日常だ。起床、学校、帰宅、寝る。飽きるくらいに変わらないルーティン。

「あ、消しゴム無くなってたんだった」

欠片になった消しゴムをつまんで、私はぼそりと呟いた。丁度今日は日曜日で学校も休みだし、買い物ついでにどこか散歩に行こう。服は考えるのが面倒だとセーラー服に手を伸ばした。

自宅から自転車で約15分。雑貨店や飲食店が寄せ集まった大型ショッピングモール。大体のものはここで揃う。のんびりウィンドウショッピングを楽しんでいると、とん、と誰かに肩がぶつかってしまった。

「あ、すみません」

つい前方不注意になってしまった。反射的に謝罪をする。相手に向き直り、その顔を見て私は腰を抜かしそうになった。

「に、ににににしきやまくん!?」

「どんだけ"に"を付けるんだよ」

同じように学生服に身を包んだ彼はおかしそうに笑う。突然の出会いに心の準備すら出来ていない。かぁっと熱くなる顔を私は隠すように俯いた。

「こんなところで会うなんて奇遇だな。お前隣のクラスの奴だよな?」

「う、うん。そう、そうです」

「なんで敬語なんだよ。同い年だろ」

思わず敬語になる私に、また錦山くんは笑った。あまりにも彼がカッコいいのと、自分の気持ち的に目を合わせれなくて俯いてローファーの爪先を見つめる。

(あぁ、何で私はこうなんだろう?)

情けなさにスカートの裾をぎゅっと握りしめた。満足に会話もできない自分に嫌気が差す。

「お前そんなビビんなよ。俺は不良だけどよ、女を無意味に殴ったりしねぇぞ?」

「えっと……錦山くんが悪いんじゃなくて……うぅん。何かごめん……」

何だか気まずいし、錦山くんにも気を使わせてしまった。微妙な沈黙が降り、お互い向き合ったまま視線をさ迷わせる。

「あー……いや、そうだ。お前に相談してぇことがあるんだが……」

「相談?」

「女が喜びそうなプレゼントを探してんだが、検討もつかなくてよ」

錦山くんの口から女という言葉が飛び出して、私は心をナイフで切り裂かれたような痛みを感じた。やはり彼には彼女がいたのだ。数多の告白を断ってきたのも納得できる。泣きそうになるのをぐっと堪えて、私は控えめに頷いた。

「……うん、いいよ。私で力になれるなら」

「おっ!マジか。サンキュー」

じゃあさっそく!と話を切り出してきた彼の笑顔は錦山くんがいつも桐生くんに見せている笑顔だった。


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