隣のクラスの錦山くん
自覚。
錦山くんが好き。
そう自覚したのはつい先日の事だ。頭を撫でられて好きになるなんてとんだミーハー女だとは思うが、一度意識してしまうとその想いはもう止められない。かっこいいし、優しいなんて、そりゃ皆告白する訳だ。
「ちょっと!?ご飯こぼしてるよ?」
「あっ!」
ぼんやりと考え事をしていたせいで、ご飯が箸からこぼれ落ちていた。スカートにくっつく白い粒を拾い上げて、三秒ルールと口の中に突っ込む私に、同席していた友人が呆れた表情を浮かべる。
「あんたまた錦山の事考えてたの?」
「ぶは!?」
「うっわ、きたなっ!?」
図星のど真ん中を思い切り突かれて、丁度飲んでいたお茶を吹き出す。飛沫から逃げるように仰け反って、ドン引きする目の前の彼女に謝罪も忘れて私はきょどる。
「ななな、なんで……!?」
「何でってあんた……ずーっと錦山の事見てるしさぁー。分かりやすすぎ!」
「そ、そんなに、見てるつもりないけど……」
言ってから、ふと自分の記憶を思い返す。登校中、休み時間、移動教室、放課後、下校中……その全部に錦山くんの姿が映っている。自分以上に彼女は私のことをよく分かっているようだ。
無意識のうちに錦山くんを見つめている自分の気持ち悪さにがくりと肩を落とす。幸いなのは錦山くんが気づいていないことだろう。
「──で、告白はしないの?」
「はっ!?いやいやいやいや、私が告白なんて恐れ多すぎ!」
学校一のマドンナでさえ、告白して玉砕しているのだ。私みたいなどこにでもいるようなフツメン女子が告白したところで玉砕どころか、呼び出しにすら応じて貰えないに違いない。
下手に動いて気まずくなるくらいなら、私は第三者のまま錦山くんを眺めていたい。私の消極的な反応に彼女はふぅん?とあまり面白くなさそうだ。どうして女子という生き物は人の恋路に首を突っ込むのが好きなのか。他人はともかく私の邪魔だけはしないでほしい。
「ま、あんたがそれで良いならいいけど……錦山がもし誰かと付き合っても平気でいられるの?」
錦山くんが誰かと──私の知らない誰かと付き合う。あり得ない話ではないし、そうなる確率の方が高い。想像して、胸が苦しくなった。絶対に平気ではない。が、割りきるしかない。
「いいもん……別に」
最後に残った唐揚げを一つ、口の中に放り込んで私は弁当箱を閉じた。
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