- ナノ -

龍が如く4

07:兄弟の再会


冴島にぼこぼこにされた真島組の組員の治療を粗方終えたアスカは西田から真島と冴島がバッティングセンターに向かったことを聞いた。何でも警察を寄せ付けないために組員達を集結させて、バッティングセンターまで花道のように道路に人の壁を作ったらしい。やることが大それていて驚くばかりだ。真島らしいといえば真島らしい。

流石にもう花道はなくなってはいたが、バッティングセンター前に10人ほどが仁王立ちで入り口を封鎖していた。道行く人がそれを見てヒソヒソと話している。スーツの強面の男がバッティングセンターを封鎖していたら、何も知らないカタギは怖いだろう。

「……入ってもいいか?」

入り口を守る男に尋ねると、何も言わずに道を開けられた。最近はよく真島組に入り浸っているからか、顔は覚えられていたようだ。

ありがとうと感謝をのべてから、バッティングセンターの中へと入った。人っ子ひとりいないエントランスからセンターの中を見回した。ガラス扉で区切られたバッターボックスよりも更に奥、普段は立ち入り禁止のグラウンド部分に二人は寝転がっている。折れたバットやらが転がっていることから、盛大な兄弟喧嘩はもう終わったようだ。

「お疲れ様、仲直りは出来たか?」

吹っ切れたような表情を浮かべている真島の顔を覗きこむ。真島も珍しく傷だらけだ。こんなに怪我をしている真島を見るのは桐生と戦った時くらいだろう。

「お前……さっきは気付かんかったが、この前アジトに来とった……」

「どうも、冴島さん」

真島の隣で転がっている冴島に笑みを返した。真島組の事務所から持ってきていた救急箱を置いて、二人のそばへ屈む。

「かなり派手な喧嘩したみたいだけど、起き上がれるか?手当てしてやるから……」

「アスカちゃん、無理や〜全身バッキバキやわ〜」

わざとらしい真島にはいはいと適当な返事をして、アスカは手当ての道具を慣れた手つきで準備をする。寝転がったままの真島とは違い、冴島は上半身を起こして、アスカの顔をじっと見てきた。

「なんだ?」

「兄弟が随分気ぃ許しとるんやな、思て」

「ヒヒヒ……アスカちゃんはな、マブダチなんーー」

言葉の途中なのも気にせず、脱脂綿に傷薬を含ませて真島の傷ついた頬に問答無用で押しつけた。

「ひゃぁーー!痛いわ!アスカちゃん!もっと優しぃしてくれや!!」

「うるせー!極道ならこんくらいの痛み我慢しろよ!」

甲高い悲鳴を上げて文句を言ってくる真島にアスカは言い返し、ぐいぐいと乱暴に全身の怪我に傷薬を塗りたくる。

実のところ、真島に表裏なく"マブダチ"と言われて嬉しかった。けれどもはっきりと言葉にされるのはむず痒くて慣れない。

「なんやアスカちゃん、照れてるんか?」

「バーカ、そんなんじゃねぇっての」

図星を突かれて、真島に絆創膏を投げつけて体勢を冴島の方へ向けた。ブーブー言う真島の声は聞こえない振りをする。

「冴島さん、手当てするぞ」

新たな脱脂綿を救急箱から取り出して、冴島の傷の消毒をする。冴島がアスカと真島の顔を交互に見て小さく笑った。

「えぇダチ見つけたんやな、兄弟」

「せやろ?」

当たり前のように真島は頷いた。冴島と真島の間で、アスカは更に顔を赤らめた。


prev next