喧嘩番長
- ナノ -

04:陣場高校襲撃


陣場高校といえば前の番長の蜂屋茂とは電話番号とメールアドレスを交換したり、仲良くさせてもらっていた。卒業後はあの有名な東関大学に行ったと風の噂で聞いている。

その繋がりで何度か今井兄弟とは会ったことがあった。蜂屋とは違い、ややチャラさはあるが何だかんだいい男達だ。

「本当に奴ら手当たり次第っすねぇ」

「姉御まで狙うとは許せねぇ奴らです」

長距離マラソン並みに走るのは好きではない。普通の女子生徒よりかは体力に自信はあるものの、流石に男と比べられるとどうしようもない。此方が息を切らしているのに、口を開く余裕があるのが悔しい。

改造バイクの音を聞き付けて、乙葉は素早くそちらへ足を向けた。

「、……あっちよ!」

陣場のとある駐車場。すでに喧嘩ははじまっていた。真っ先にたどり着いたのであろう狂犬と佐伯が、烈火の連中とやりあっている。そのそばに田城の姿を見つけて乙葉は眉間にシワを寄せた。

あの男はまた一体何を企んで東関狂走連合側にいるのか。自分の手を汚さず、部下に殺らせ、自分はのしあがるそのズル賢さは乙葉の癪にさわる。なぜあんな男が慕われているのか乙葉には一切理解できない。

「私達も加勢するわ!副島!小田原!!」

「「はっ!!」」

乙葉の指示で副島と小田原が素早く喧嘩に飛び込んでいく。第三者の介入に烈火の不良は動揺する。

「ななな、なんで白銀の女王がこいつらに協力してんだぁ!?」

「あらいつかの腰抜けさんじゃない。覚えておいてほしいのだけど、私達白銀は極東連合に入ったわ。これから全面的に貴方達を潰しに行くからよろしくね」

高みの見物を決め込んでいた田城に不敵な笑みを浮かべた。ひぃ、と情けない声を上げて後退していく田城は本当にシャバい。

「お、おいおめぇら!こいつをやっちまえ!!」

「田城さんに手ェ出すんじゃねぇ!」

田城のヘルプに即座に三島が反応し、殴りかかってくる。初手を身を屈めて避け、その流れで足払いを掛けたが、体勢は崩さなかった。舌打ちをして、更に立ち上がりと同時に上段キックを三島の胸部に打ち込む。

相手を後退させ、追撃で米神にハイキックを食らわせようとしたが腕でガードされた。烈火の頭だけあってその辺の雑魚よりかはそれなりに出来るらしい。だが、以前の襲撃の時に三島の動きは見極めさせてもらった。次は当てられる。

「ぜーんぜん、弱いわね。話にならないわ」

「なめやがって!クソアマが!!」

挑発すればすぐに激昂して攻撃が単調になる。思い通りに動いてくれる三島に口元が緩んだ。こうなれば後は簡単だ。攻撃をいなせばいなすほど、怒りは増して更に単調に。

三島の背後で別の不良と戦いながらも心配そうな視線を寄越してくる小田原に大丈夫だ、と視線で合図した。下手に手を出されるのが嫌いなのを知っているから、倒されそうにならない限りは大丈夫だろう。

「そろそろ決着、つけましょうか」

あまり長引かせるとこちらの体力がなくなってしまう。周りの敵も減ってきたし、いい加減喧嘩しているのも面倒くさくなってきた。

単調な攻撃を見切り、懐に潜り込んで顎に向けて拳を打ち付ける。ずっと避けていた乙葉の突然の反撃に三島は怯み、動きを止めた。畳み掛けるように、アッパーで浮いた三島を次は踵落としで地面へ叩きつける。

「終わり、ね」

うつ伏せのまま動かない三島を見やり、乙葉は涼しい顔で周りを見回した。乙葉が三島を沈めたのとほぼ同時に副番長の羽柴も狂犬が仕留めたようだ。トップ2が同時にやられたのを見て、烈火の下っ端たちは尻尾を巻いて逃げ出していった。

倒れた烈火の二人を見て、何処に隠れていたのか田城が姿を現した。あろうことか田城は倒れた二人を見下し、助けを求めた三島を蹴り飛ばす。

「俺ぁ使えねぇ野郎はでぇっ嫌れーなんだよぅ!お前ら烈火はもう終いだよ!」

「た、田城さん……」

がくりと項垂れる彼らに敵ながら同情してしまう。本当に田城はクズ野郎だ。

「相変わらずのクズ男ね。部下を道具としか思っていないのかしら?」

「やっかましい!覚えてろよテメェら!亮に頼んで、ソッコー消してやっからなぁ!!」

ダサい捨て台詞を吐いて何処かへ立ち去ろうとする田城の前に紫色の特攻服を着た男が立ちはだかり、思い切り右ストレートを打ち込んで、一発でノックアウトさせた。赤いバンダナが特徴的だが、あの男も東関狂走連合のメンバーなのだろうか。

「あの男は羅兎怒武蔵山支部の黒澤琢巳ですよ。東関狂走連合のメンバーです」

ヒソヒソと小田原が教えてくれる。羅兎怒の黒澤。味方であるはずの田城を殴るとは中々見所のある男だ。彼から放たれるオーラはタダ者ではない。

「この"極東"の狂犬様をなかなかとはね……そういうあんたはどの程度なんだよ?あぁ?」

黒澤に食って掛かる狂犬に乙葉は冷めた目を向ける。今の狂犬では黒澤に勝つのは難しいだろう。

「……随分イキっているわねぇ」

「馬鹿ですね」

黒澤とタイマンを始めた狂犬を見て乙葉はぼそりと呟いた。明らかに狂犬の方が場数も力も負けている。

拳の打ち合い、蹴り、攻撃が何度か繰り返された。どちらも一歩も引かない攻撃と防御の応酬。乙葉の予想を裏切って思いの外狂犬は黒澤を相手に善戦した。

「陽一!陽二!」

狂犬と黒澤のどちらもがスタミナ切れになったタイミングでヤスオが駐車場へと駆けつけてきた。随分と遅かったが、これでこの場は収まるだろう。

「田城!テメェ!こんなところで何してやがる!!」

「ひっ!ひぃぃぃ〜!!」

ヤスオ達の登場に分が悪いと感じたらしい田城は黒澤のバイクに跨がり、さっさと逃げて行ってしまった。



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