喧嘩番長
- ナノ -

03:極東連合


極東連合の集会の日取りと時間を小田原にこっそりと調べさせた。今まで不良の情報等に興味の欠片も示さなかった私が突然連合の情報を調べろなんて言った物だから、小田原はかなり驚いていた。

乙葉の無茶振りにも小田原はきちんと答えてくれて、何処からか情報を拾ってきてくれた。そのお陰で乙葉は今、極東神社までの道のりを歩いている。ブレザーのポケットから携帯を取り出し、時間を確認する。この分なら集会が始まった頃合いにつくだろう。

「姉貴、なーんで今更極東連合の集会なんか見に行くんすか?」

「……まあちょっと思うところがあって……。というか何で貴方達も着いてくるのかしらね」

一人で行くつもりだったのに、乙葉の背後には副島と小田原がしっかりと着いてきている。明らかな不良の外見をしている二人を引き連れて歩くのは好きではないため、普段は無理やり突き放しているのだが今回ばかりは折れてはくれなかった。

「良い奴らですけど、立場上は敵なんですよ!」

「姉貴はいーっつも一人で無茶するんすから、今日くらいは護衛させてください」

護衛も何も喧嘩しに行く訳でもないし、極東連合の彼らとは仲間ではないが何度かは顔を合わせたこともある知り合いだ。総長の田中ヤスオもむやみやたらに暴力を振るうような男ではないことを二人も知っているはずなのだが。

極東神社の石造りの鳥居をくぐり、階段を上る。騒がしい声が聞こえてくることからもうすでに極東連合はちゃんと集まっているようだ。

「こんにちは」

石畳を踏みしめ、賽銭箱の前に座る田中ヤスオを見据えて挨拶をした。突然の乙葉の登場に極東連合は驚いた顔をしてこちらを見つめている。その中に以前出会った武田トモヤもあった。集会に参加しているということは彼もようやっと連合に参加できたようだ。

「よう、春野じゃねぇか。連合傘下でもねぇのに集会に来るなんて何のようだ」

驚きはしつつも、田中ヤスオは尋ねてくる。それに乙葉は顔を引き締め口を開いた。

「数日前に東関狂走連合の烈火に襲われたの」

乙葉の言葉に反応したのは極東連合ーーではなく背後に控える二人だ。

「姉貴!そんなこと俺ら一言も聞いてねぇっすけど!!」

「襲われたなんて!!あいつら!!」

ぎゃいぎゃい騒いで話の腰を折る彼らを睨み付け、黙らせる。乙葉の鋭い視線を受け、二人は即座に口をつぐんだ。

こういう面倒くさい反応をすると分かっていたから黙っていたのだ。

「単刀直入に言うと、我々白銀学園は極東連合傘下に下りたい」

「面倒事が嫌いなお前がどういう風の吹きまわしだ」

「何処にも属さない中立の立場でいるつもりだったけど、敵にはそんなこと関係ないみたいだから……都合のいいこと言っているのはわかっているわ」

実際、中立と言っても下っ端の不良達は対立争いに巻き込まれたりと全く意味がなく、言葉だけだ。それならば、いっそのこと連合に加入し、他の高校と協力体制をとった方が自分も下っ端達の身も今よりかは安全になるだろうと考えたのだ。

集会参加や、召集など面倒なこともあるが仕方のないことだ。その辺りは副島や小田原にやらせよう。

「なるほどな」

「まぁ、理由はそれだけじゃないんだけどね」

ちらりと狂犬に視線を送る。まだ顔に驚きを残したままだ。

「良いだろう。こちらも白銀の戦力が加わるのは心強い」

暫し考え込んだあと、ヤスオは首を縦にふった。望み通りの回答を貰い、乙葉は微笑みを浮かべ、感謝の言葉を述べる。

「ありがとうーー大体皆知っていると思うけど……私は白銀学園番長、御子神乙葉。後ろにいるのは白銀幹部の副島と小田原。以後お見知りおきを」

連合の幹部に向き直り、挨拶をする。乙葉にならって背後の二人も会釈をした。それにいち早く反応したのは灰色の学ランの男だ。

「おう!御子神じゃねぇか!」

房曾工業高校番長、菊永洋平。彼とも一年前のいざこざで何度かは会ったことがある。まだ十代のはずなのだが、老けた顔つきだ。何気にコンプレックスなのかおっさんと呼ぶと怒る。それよりもーー

「洋平くんって……去年三年生じゃなかったかしら……?」

「ぃ、いやそれがよ……出席日数が足りなくてだな……」

言いづらそうにぼそぼそと喋る菊永に苦笑した。要するに留年したらしい。呆れたように肩を竦め、苦笑する。

「次こそ卒業しないとダサいわよ」

「わぁーってるがよぉ……停学させられちゃ俺様にはどうしようもねぇんだよ」

暴れまわりすぎて停学とは不良らしい。

菊永との話を切り上げ、他の高校の番長と軽く挨拶をして回った後、そわそわとしていた彼のそばへ歩み寄った。

「この前はありがとう。狂犬くん」

「あ、あんた、番長だったのかよ……」

「黙っててごめんなさい。守って貰うのなんて久しぶりだったから、つい……」

軽く謝罪し、からからと笑う。それから狂犬の隣にいる男に挨拶をした。

「君は?」

「俺は極東高校の佐伯新之助です。よろしくお願いします」

茶髪の髪を逆立てた中々イケメンだ。あまり不良らしくない顔付きをしている。話を聞くと狂犬の親友だそうだ。

よろしく、と佐伯と握手していると、狂犬もしたそうに分かりやすくそわそわしだしたので、乙葉はそっと手を差し出した。

「えっと、武田トモヤです。よろしくお願いします!」

「ふふ、よろしく。狂犬くん」

手汗をズボンで拭いとってから、少し緊張した面持ちで乙葉の手を握り返した。喧嘩で傷んだ手のひらは少しかさついていて硬い。男らしい手だ。

「何だ?陽一と陽二はまだ来てねぇのか?ちゃんと連絡したんだろうな?」

「はい。ちゃんと連絡しました!来るっていってたんですが……」

ヤスオの会話が聞こえて振り返る。そういえば陣場高校の番長が来ていない。今井兄弟は何の連絡もなしに集会をすっぽかしたりしないはずだ。

「嫌な予感がするわね」

「まぁいい。始めるか……お前らに来てもらったのは他でもねぇ……東関狂走連合の件だ」

東関狂走連合はどうやら他の高校の不良にも手を出していたようだ。國志摩、洸立館でもすでに被害があったらしい。中立の乙葉にもちょっかいかけてきたあたり、もうあちらは完全に極東線沿線全員と戦争を始めるつもりだろう。

「東関狂走連合……俺ら極東連合結成以来、最強の敵だろう……だけどな、俺らはなんとしてもこの極東線沿線を守らなきゃならねぇ!」

外のモンに負けるわけにはいかねぇんだ。ヤスオの言葉に皆が強く頷いた。

「や、ヤスオさーーーん!!レイナさーーーん!!」

集会の最中、大声を上げて陣場高校の不良二人が神社へ駆けつけてきた。ぜぇぜぇと肩で息をしながら二人は口を開く。

「……陽一さんと陽二さんが……陣場中央駅前で、か、囲まれて……」

「暴走チームに囲まれちまって……はぁはぁ……どっかに連れてかれちまったんです!ヤ、ヤスオさん!助けてください!」

東関狂走連合の仕業だろう。全く手の早い奴らだ。味方がやられるのを何より嫌うヤスオは即座に立ち上がり、連合幹部に指示を出す。

「私達も協力するわ」

「あぁ頼んだ。陣場中央駅前だ!」

行くぞ!ヤスオの号令で極東連合は一斉に動き出した。


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