02:烈火の襲撃
●●●
バイクの唸る音が響く。その煩さに耳を押さえながら、その根元を見やった。赤い長ランを纏った不良達が道路を駆け抜けている。
全くもってはた迷惑な連中だ。
やっぱり不良って嫌いだなと再確認しつつ、気にせず道を歩く。今日はコンビニに寄って帰るつもりだったため、いつもより少し遠回りだ。携帯で時刻を確認する。見たいテレビ番組の開始時間には十分間に合いそうだ。
「よし!さっさと買うもの買って帰ろっと」
携帯をブレザーのポケットへ仕舞い、少し大股に歩きだす。それと同時にすぐ隣でバイクの爆音が鳴り響いた。即座にバックステップを踏み、身構える。
「見つけたぜぇ!テメェが女王だなぁ!」
歩道でも構わずバイクを乗り上げ、乙葉を囲んでこちらの退路を絶ってきた。赤い学ランーー東関狂走連合の烈火というチームだろう。以前小田原が教えてくれた。
「東関狂走連合の方が何のご用?」
目の下の隈が酷い男がニヤリと下卑た笑みを浮かべる。この男が烈火のリーダーの三島だろう。
「お高くとまってる女王様を潰しに来てやったんだよ!!」
「それでわざわざ部下をぞろぞろ引き連れてきたのね」
周りを取り囲む不良達を見やり、鋭く睨む。一年ほど前にもこんな風に不良達に囲まれたが、女に寄ってたかって恥ずかしくないのだろうか。
「シャバいわね」
「んなもん関係ねぇ!勝ったもん勝ちなんだよ!おい!お前らやっちまえ!」
持っていた鞄を邪魔にならないように道の端に投げ捨てて素早く戦闘体勢に入った。雑魚の不良が殴りかかってきた、その瞬間だ。
「テメェら何やってんだ!!」
横から飛び出してきた影が不良を殴り飛ばした。そして乙葉を守るように前に立ちはだかる。
「女に手ェあげて恥ずかしくねぇのかよ!」
茶髪のツンツンヘアの男。見覚えのある学ランは極東高校の物だ。
「きょ、狂犬が何でこんなとこに……!」
三島が男の顔を見て怯んだ。顔見知りのようだ。"狂犬"とやらは彼の異名だろうか。聞いたことはないが。
「アブねーから下がってろよ、オネーサン」
「あら、ありがとう」
どうやら狂犬くんは乙葉の事を知らないようだから、ここは甘えておこう。楽できるときは楽したい。
道の端にささっと下がって彼らの戦闘を見守る体勢に入った。
存外狂犬は強かった。動きは粗いが伸び代がある。まだまだ強くなるだろう。あっという間に蹴散らして、烈火の不良達は逃げ帰って行った。
「オネーサン怪我ねぇ?大丈夫か?」
わざわざ鞄まで拾い上げ、渡してくれるあたり優しい。差し出された鞄を受け取り頷いた。
「えぇ。大丈夫。ありがとう」
最近はあんな風に守られた事など無かったため、新鮮で何より嬉しかった。くすくす笑いながら礼を言うと、狂犬は照れたように頭を掻く。
「貴方、極東高校よね?連合には入ってるの?」
「いや……俺は連合にはまだ認めてもらえてなくて……」
意外な回答に乙葉は少しばかり驚いた。先程の戦いぶりは悪くなかったし、女が絡まれているのを見て間に入るくらいの漢気もあるのに、どうして田中ヤスオは彼を連合に入れていないのだろう。
「連合に認めてもらいたい?」
「そりゃもちろん」
力強く頷く彼に、乙葉は口角を上げた。
「そう……わかったわ。私は御子神乙葉、貴方は?」
「俺は武田トモヤ。極東高校の二年だ」
名前を聞いて、忘れないように小さな声で復唱する。武田トモヤ。極東高校の狂犬。
彼はきっと将来大きな漢になるだろう。今後の彼を想像して乙葉は楽しげに笑みを浮かべた。
← →
● back