喧嘩番長
- ナノ -

01:白銀の"女王"


面倒なことになる。と思っていたが、予想には反して乙葉の与り知らぬ所で終結していた。舎弟に聞いた話によると、黒真連合と相対していた極東連合を率いる田中ヤスオという男が黒真連合のトップ剛田竜司を倒し、一連の騒動を収めたらしい。

学年が切り替わっても乙葉の番長の立ち位置は変わらず、不良達は姉御、姉貴と慕ってくれている。指示をしたりした覚えはないが、いつの間にか不良達の中で乙葉をトップとした上下関係が出来ていた。所謂幹部、という立場に二人。一匹狼な乙葉は不良に興味は無かったが、毎回付き従ってくる不良の顔と名前くらいは流石に覚えた。

副島貴広と小田原輝。二人とも乙葉と同じ三年生。ブレザーよりも学ランが似合いそうな金髪のリーゼントと今時の茶髪の無造作ヘアの二人だ。屋上の溜まり場のセッティングや身の回りの事を手厚くしてくれる。頼んだつもりはないが、やりたくてやっているようなので放っておいている。

「姉御。お耳に入れたいことが……」

屋上の溜まり場。ソファに身体を沈める乙葉のそばで小田原が膝をつき、耳打ちをしてくる。

「東関狂走連合という連中が最近この辺りで好き勝手しているみたいです」

「何その暴走族みたいな連合名……」

読んでいた小説を閉じて、身体を起こす。黒真連合の時もそうだったが、不良の諍いには首を突っ込まない主義だ。ふぅんと興味なさげに相槌を打つ。

「えぇ。姉御の言う通り不良の暴走族で……先日も島村高校の番長が潰された、と……」

「"女王"の名は有名ですし、姉貴も狙われるかもしれないっす」

脇に控えていた副島が口を開く。そこから出た単語に乙葉は顔をしかめた。

"女王"

誰が言い始めたのか不本意な異名である。極東高校の佐々木レイナは"女帝"でこちらは"女王"。皆恥ずかしげもなく、呼んでくれるがこちらとしてはたまったものではない。

「東関狂走連合は幾つものチームが組んでるデカイ組織っすよ。束になって掛かられたらいくら姉貴でも……」

彼らなりに心配してくれてるようだ。静かに息を吐き出し、二人を見やる。

「私も負けそうな時は流石に逃げるわよ」

退き時が分からないような能なしではない。危険な時はさっさと逃げる。例えシャバいと言われようと、自分の身の安全が第一だ。そもそも、私は自分が不良だと思ったことはないから、不良にシャバいと評価されても痛くも痒くもない。番長も勝手に周りが言い出したことなのだし。

「貴方達も気を付けてね」

今日はもう帰るわ、と屋上を後にする。背後で俺らの心配までしてくれるとは姉貴はやっぱりサイコーだぁ!!という感極まった叫び声が聞こえて、乙葉は思わず頭を抱えてしまった。



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