喧嘩番長
- ナノ -

00:白銀学園番長


極東線沿線にあるとある高校。名を白銀学園。

周りが不良高揃いなこともあり、ここもそれなりに不良が多い。校内でいざこざが起こることも多々あり、元々正義感の強かった私はつい不良を何度も止めているうちにいつしか不良達から"姉御"や"姉貴"等と呼ばれて慕われるようになってしまった。所謂番長だ。非常に不本意ではあるものの、そう呼ばれるようになってから校内の治安は比較的良くなったので、悪いことではない。

「姉貴ぃーー!!校門に黒真連合の奴らが!!」

屋上にいつの間にか用意されていた小綺麗なソファにのんびり座っているとリーゼントをばっちりと決めた不良が屋上のドアを破るようにけたたましく飛び込んできた。教科書を片手に自習をしていた私はその騒々しさに顔をしかめながらも、目の前で膝をつく不良を見る。

「何事?っていうか黒真連合って何かしら?」

番長とはいえ、自分の意思でなった訳ではないため、校内のことはともかく別の学校の不良同士の諍いには疎かった。黒真連合の黒真、とはあの黒真高校のことだろうか。

「最近ここいら一帯の高校を傘下に加えて、勢力を伸ばしてる奴らっす!」

首を傾げる私に不良は懇切丁寧に答えてくれる。なるほど、と相槌をうち、ソファから立ち上がった。黒真連合が来た理由は薄々予想できる。

「ふぅー面倒くさいわね……でも行くしか無い、か……」

ため息を吐き出しながら、屋上を後にした。


校門に違う制服を纏う人相の悪い不良集団が見つかった。鋭い眼光に一般生徒が怯えてしまっている。うんざりしながら、大股で不良の集団に歩み寄った。

「校内の風紀が乱れるから帰っていただけるかしら?」

「あぁ?なんだテメェ、女はすっこんでろ」

なにも知らない黒真の不良がガン飛ばしてくるが、負けじとにらみ返す。女だからとナメた態度を取る男は嫌いだ。

「ちょーっと待って待って、俺たちゃ今日はハナシアイに来たんだ。ハ、ナ、シ、ア、イ!」

きんきん声のひょろっとした男が間に入ってきた。胡散臭いその男はどうやら幹部らしく、ガンを飛ばしていた不良はあっさりと引き下がる。

「あの男、黒真連合の幹部の田城っすよ」

私の後ろに着いてきていた不良がこっそりと耳打ちをして男の名前を教えてくれた。幹部というには弱そうな男だ。あの手この手ですり寄って成り上がったタイプだろう。

「ネーチャン、ちょっと聞きてぇんだがよ、この学校シメてる奴は誰だ?」

「……話し合いって、どうせ黒真連合の傘下に入れって事でしょ?」

どうやらこの学校の番長が誰か分かっていなかったらしい。交渉に来るならこちらの顔と名前くらいは覚えてほしいものだ。

しれっと質問に質問を返すと田城は眉を潜めて乙葉の顔をまじまじと見てきた。

「わざわざこんなとこまでご足労どうも。私は不良の集まりなんかに興味はないの」

悪いけど帰って。乙葉の突っぱねるような態度に田城の背後の不良達が唸る。

「なんだぁネーチャン。あんまナメたクチ聞いてっと痛い目にあうぜぇ?」

威嚇のようにゴキゴキと拳の骨を鳴らす不良達を涼しい目で見やる。暴力で解決しようとする不良の短絡さは好きではない。暴力は最終手段であるべきだ。勿論正当防衛は別として。

「貴方達こそ、交渉するならもう少し情報を収集してからの方がよろしくなくて?」

合図を待たずに拳を振るってきた不良を軽くいなして、にこりと笑って見せた。

「不本意ながら私がこの学校の番長、御子神乙葉よ。痛い目に会いたくないなら今のうちに帰ることをオススメするわ」

「お、お前が……!?おい!テメェら!やっちまえ!」

田城の合図を皮切りに四人の不良が一気に此方へ襲いかかってくる。女だからと見下げられるのは嫌いだが、女相手に男が数人がかりで向かってくるなんて情けない奴らだ。

私を守ろうとした不良を手で制した。攻撃の予備動作を見るだけでおおよその強さは把握できる。下手に介入されると逆に面倒だ。

考えなしに勢いだけで突っ込んでくる不良を半身で避け、それと同時に不良の首もとへ手刀を切る。一瞬でひとりを昏倒させて、目の前に迫ってきていたもうひとりに容赦のない上段蹴りを食らわせた。

「ぐあっ!?」

白目を向いて吹っ飛んでいく不良を最後まで見ることなく、素早く残りの不良の懐へ潜り込み、拳を突き上げて顎を強く打ち付けた。確実に急所を狙い、一発で仕留める。それが乙葉の戦闘スタイルだ。

「これでもまだ、喧嘩したい?」

3人を一瞬で沈めた所で、残る1人と田城に最終通告をする。拳を鳴らして、にこりと笑みをひとつ。田城は腰を抜かし、情けない声をあげ、残る不良も怯えている。

「貴方達のリーダーにきちんと言っておいて。私は黒真連合の傘下になんかならない……次来たら、潰す」

「ひぇぇぇ〜〜!!」

ちょっと脅せば面白い程の悲鳴をあげて、陸上部顔負けの足の早さで逃げていった。その背を冷めた目で見送り、乙葉は小さく息を吐き出した。

面倒なことには巻き込まれたくないのに、どうしてこうも不良は面倒事を持ってくるのだろう。今後のことを思うと憂鬱な気分になった。


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