喧嘩番長
- ナノ -

19:epilog




Prrr……Prrr……


ーーお父様、聞きたいことがあるのだけれど。如月亮という男を知っているかしら?


おぉ、知っているよ。最近竜心会に連れてこられたらしい、東関狂走連合の少年だろう?暴走族の時から有名だったからねーー


ーーえぇ、その少年を助けたいのだけれど……


おや?乙葉がそんなことをいうとは珍しいね?ーー


ーー仲の良い友達の幼馴染なの。だから……


なるほど。乙葉の頼みなら一肌脱いでやろうーー


ーーありがとう、お父様。


またこちらにも顔を見せに来なさいーー


ーーえぇ、気が向いたらね。


ーーーーーーー
ーーーー……


高校卒業から何度目かの春が来た。桜舞う並木の下で、風が乙葉の髪を浚っていく。

待ち合わせの時間はとっくの昔に過ぎているというのに、待ち人は来ない。最初から定刻通りには来ないだろうと予想していた。遠目に全力疾走している姿を見つけ、乙葉は苦笑する。

「乙葉ー!!聞いてくれよ!」

ドタバタと騒々しい足音を立てながら、彼は携帯を片手に目の前で急ブレーキした。遅刻した、という事実は彼の頭の中からすっぽぬけているようだ。

見てくれとばかりにずいっと目の前に携帯が差し出された。

「亮……亮から!!連絡が来た!!」

携帯の画面には確かに如月亮と名前が表示されている。数年前のあの一件以来、消息を絶っていた彼の幼馴染だ。

「そ、良かったわね、トモヤ」

「お、おいおいドライすぎるだろ?」

「如月くんにボコボコにされたの、まだ根に持ってるもの」

もう少し一緒になって喜んでくれると期待していたらしいが、トモヤにとっては大事な幼馴染でも、乙葉からしたらボコボコにしてきたクソ男だ。とはいえ、如月が再び世に出れたのは喜ばしいことだ。

「まあ……また会いに行きましょうか?阿弥浜にいるんでしょ?」

「あぁ!乙葉の事もちゃんと紹介しねぇとな!……ってなんで阿弥浜って知ってんだよ!?」

「ひーみーつ!」

口元に人差し指を立てて、乙葉は意地悪な笑みを浮かべた。




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