喧嘩番長
- ナノ -

17:抗争の終わり


胸元で祈るように手を組み、瞬きもせずに見つめる。両者一歩も引かぬ拳の打ち合い。呼吸をするのも忘れそうな白熱の勝負だった。

狂犬が拳を避け、蹴りを入れれば、如月が今度はジャブを当ててキツい拳をお見舞いする。頬を打たれてよろめきながらも狂犬は踏ん張り、振りかぶるように如月を殴り返した。

「勝負あったな」

邪魔にならぬよう球場の隅で勝負を見ていたヤスオが静かに告げる。鈍い打音が響き、如月がふらりとその場に倒れた。勝敗の結果に誰もが息を飲んだ。如月の敗北に狂走連合の不良達は恐れおののき、東関ドームから逃げ出していった。

「ま、負けたぜ狂犬……お前らの……お前ら極東連合の……勝ちだ……」

「亮……何で……何で最後に乙葉を逃がしたんだ……?逃がさなけりゃ……お前らの勝ちだっただろうよ?」

「さ、さぁーな……はぁはぁ……俺にもわからねぇよ……」

苦しげに呻き声を上げる如月を狂犬が抱き起こす。肩で息をしながら、如月は狂犬を見上げた。

「や……約束……約束どおり……と、東関、狂走……連合は……解散する……に、二度と……お前ら……お前らの前には……姿見せねぇ……誓う、ぜ……」

「亮……」

「お、お前は……あん時の……あん時の約束、ど、通りに……す、スゲェ……スゲェ奴に、なったな……」

は、と狂犬は瞠目した。

「亮?お前、俺らの約束覚えてたのか!?」

「へへ……な、なんとなく……な……」

力なく笑いながら、如月は自らの力で立ちあがり狂犬に背を向けた。拒絶にも似たそれに狂犬は少しばかり悲しげに眉を下げる。

「お前も……お前もスゴイ奴になってたじゃねぇか」

「俺は違う……俺はニセモノだ……ほ、本当の意味で……スゴイってのは……」

ーーお前みたいな奴のことを言うんだよ。

自嘲するように笑って、如月はふらつきながらも己の足で狂犬の元から立ち去った。

塚田と袴田が如月のそばへと駆け寄り、労りの言葉をかけながら頭を下げ、そしてその後を着いていった。敗北した彼らがどうなるのか、考えたくはない。

「すっげぇな少年!ハンパじゃねぇよお前は!」

真っ先に狂犬の元へと駆けて行ったヒロシが激励する。他の面子もヒロシの元へと走って行った。皆も戦いで疲れているだろうに、元気なことだ。

「思ったより強いじゃねぇか新人!まぁ俺ほどのスケールは感じないが」

「ホントに素直じゃないねぇ菊ッチは。実は嬉しいんじゃないの?下の世代にこんなすげぇ奴が出てきてさ?」

「ジェラシーだったりして……」

調子にのっておちょくるシンジを菊永がぶん殴る。いてぇー!と悲鳴を上げるシンジにヒロシが大笑いをした。

「お疲れ様、狂犬くん。最高にかっこよかったわ」

皆よりやや遅れて、狂犬のそばへ歩み寄る。乙葉の声に勢いよく狂犬が振り返った。

「乙葉!助けられて……本当に良かった……!!」

握り締められた手がほんの僅かに震えていて、乙葉はどれだけ狂犬が不安だったのかを理解した。彼の優しさが身に染みる。

「ありがとう、狂犬くん」

長く続いた抗争に終止符が打たれた。



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