喧嘩番長
- ナノ -

16:最終決戦


明らかに東関狂走連合の方が人数は勝っていた。しかし、それ以上に極東連合はそれぞれが強く、確実に狂走連合の雑魚を蹴散らしている。兵隊がやられていくのを如月はイライラしたように眺めていた。

「おい、テメェ……こっちに来い」

袴田が隅で戦いを見守っていた乙葉の腕を掴み、強引に真ん中へと引きずる。戦況が不利だと感じ、ついに乙葉を使うつもりのようだ。

「テメェら!そこまでだ!」

塚田の声に、戦いが一旦止まる。全員の視線が塚田と隣にいる乙葉と袴田へと移った。

身体を拘束され、刃渡り15センチはあろうナイフを首筋に添えられている。出来ることならこんな皆の足を引っ張るような情けない人質にはなりたくなかった。

「オラァ!動くとこの女バラすぞコラァ!!」

内心で謝罪し、兵隊たちに囲まれる仲間を見つめた。この状況をどう打開すべきか、視線をさ迷わせながら必死に策を考えるが良い案は思い浮かばない。

「亮!これが……テメェのやり方かぁ!!」

「やかましいわ!バラされたくなけりゃ、おとなしくそこで潰れろや!」

じりじりと輪を縮めていく雑魚に狂犬達は手を出せずにいる。

「狂犬くん!私のことは気にせず戦って!」

「んなことできっかよ!!」

自分が原因で怪我をしてほしくなくて言った言葉もあっさり一蹴されてしまった。苦い顔をして、乙葉は歯噛みする。

「会長!ご指示を!」

乙葉のせいで、極東連合は完全に窮地に追いこまれていた。こうなったら怪我を覚悟で袴田を振り払うべきだろう。小田原達にはまた怒られてしまうが、致し方ない。

ーーよし。

意を決して、身体に力をいれる。

「袴田……オンナを逃がしてやれ……」

背後から聞こえてきた如月の言葉は誰もが想像していなかった。乙葉も自分の耳を疑った。

「は!?そ、そんな!この女を使えば、東関狂走連合は勝てます!会長!?」

「いいから逃がせぇ!」

拘束していた袴田も動揺を隠さないまま、如月へ問い返したが、怒声を飛ばされ口を閉ざした。

「わ、わかりました……」

納得できない様子ではあったが、袴田は乙葉の腕を縛っていたロープをナイフで切り落とす。無事、拘束を解かれたものの想定外のことに乙葉は逃げるのを躊躇したが、如月の責め立てるような怒声を受け、追いたてられるように狂犬の方へと退いた。

「乙葉……!」

泣きそうなような安心したような、どちらもがまぜこぜになった表情で頬にそっと手を添えられる。

「ゴメン……ゴメンな……」

「ううん……助けに来てくれてありがとう、狂犬くん」

顔に新たに出来ている怪我に、狂犬は申し訳なさそうに謝罪をする。緩く頭を振り、自分よりもずっと大きな手に手を重ねて微笑んだ。

こうして助けに来てくれただけで充分だ。狂犬には何度も救われた。烈火に襲われたときも、暗黒騎士団に襲われたときも、今も、何度も狂犬は乙葉の元へ駆けつけてくれた。

「ウエのモン同士で決着つけようじゃねぇか……」

何故、如月が勝てるチャンスをふいにしてまで、乙葉を解放したのかはわからない。袴田の言う通りに乙葉を人質にしていればそのままヤスオ達をフクロにすることだってできた。

もしかしたら如月は自らの暴走を唯一の親友である狂犬に止めてほしかったのかもしれない。理由は乙葉には知るよしもないが。

「ヤスオ先輩、アイツは……如月亮は、この俺にやらせてください。必ず勝ちます!お願いします!」

「わかった。思う存分殺り合って来い狂犬!」

「はい!」

向こうも如月がタイマンをはるようだ。親衛隊を下がらせ、ゆっくりと前へと歩みでる。

「亮……行くぞコラァ!!」

かつての親友との戦いが始まった。



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