15:東関ドーム
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約束の3日後、午前0時が近づいている。東関ドームには白い特攻服の男達が集結した。何十という男達に囲まれながらも、乙葉は顔色ひとつ変えずただ塚田のそばで佇んでいた。直前までは五体満足であったのだが、乱闘で逃げられては困るから、と少し前に後ろ手に縛られてしまった。 拘束され不自由な身体にやや不満を持ちながらも、電光掲示板に表示された時刻を眺めた。もうまもなく0時になろうというところだ。
極東連合の彼らが約束を違えることはないはずだ。ヤスオは身内が傷つけられるのを極端に嫌う。例えそれが最近連合に入ったばかりの乙葉でも例外ではない。
囚われの姫という柄ではないが、結果的にそうなってしまった事を内心で謝罪しつつ、掲示板の時刻表示が0を指し示す瞬間を見届けた。
0時丁度。ヤスオを筆頭とした極東連合のメンバーが球場へと入ってきた。空気が一瞬にしてぴりぴりした緊張感に包まれる。ざわめきが止まり、 静寂がドームを支配した。
「待たせたな……」
「お前が極東連合総長、田中ヤスオだな?」
「その通りだ、お前は如月亮だな?」
「あぁ……」
極東連合、狂走連合、それぞれのトップが初めて顔を合わせる。黒と白の衣服が対称的だ。
「御子神はどこだ?」
「そこだ……」
どん、と袴田に背中を押され、たたらを踏む。乱暴な扱いに乙葉は不快感を示すように袴田を睨んだ。
「乙葉!大丈夫か!?」
「一応は、ね」
向こうからは肩の傷など見えていないだろうから、曖昧な返答をした。戦いの前に変な心配をかけさせたくはない。勝手に喋るなと言わんばかりの如月の眼光に乙葉は口をつぐんだ。
「俺はテメェを、絶対に許さない……必ずここでぶっ倒してみせる」
「お前にできるかな?俺を倒すなんてことが……」
「亮……お前はやり過ぎた。かつての親友として、必ず倒す!」
挑発的な如月にも動じることなく、狂犬は叫ぶ。強い狂犬の言葉に如月は不敵な笑みを浮かべた。
「もし、お前ら極東連合が勝てば、このオンナも返すし、俺ら東関狂走連合は今日で解散する。その代わり、お前らが負けたら、このオンナは俺が好きなようにするし、極東線沿線は俺らのものにする」
ーー文句はねぇよな?
問いかけにヤスオは頷いた。もう交わす言葉は必要ない。
静かに上げられた如月の右手に空気が張りつめる。誰もが唾を飲み、その瞬間を待った。
「皆殺しにしろぉぉぉ!!!」
如月が手を振り下ろしたのを合図に戦争は始まった。
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