14:人質レディ
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人質とはいえ、ご飯やトイレなどは当たり前だが必要でその辺りの世話は塚田、という男がしてくれた。逃げることも少しは考えたが、手負いの身体では塚田を撒くことは難しそうだった。
如月の脇を固める塚田は暗黒騎士団親衛隊という立場にいるそうだ。もう一人、黒マスクを着けた男は袴田という名前だと教えてもらった。躊躇することなく乙葉にナイフを突き立ててきた辺り、一番関り合いになりたくない人種だ。
「ちょっと聞きたいのだけど……」
「あぁ?黙って食えよ」
近所のシロクマートで買ってきたらしいおにぎりを頬張りながら、乙葉は見張りの塚田に声をかけた。見張りのために側に立っていた塚田は眉間にシワを寄せたが気にせず言葉を続ける。
「東関狂走連合のバックにはどこがついてるのかしら?」
暴走族の背後には大体ヤクザが絡んでいる事を乙葉は知っていた。東関狂走連合のような大きな連合軍ならば、間違いなくいるだろう。
もうひとつのおにぎりを開封し、それを食べながら答えを待つ。
「何でテメェにんなこと教えなきゃなんねぇんだよ」
「減るものじゃないんだし、いいでしょう?」
捕らわれているというのに一切物怖じしない乙葉に塚田は面倒そうにため息をついた。
「"竜心会"ってとこだ。毎月上納金納めてる」
「ふぅん」
「って聞いたくせに興味なさそうな返事だな!?」
突っ込む塚田を無視し、乙葉は顎に手を当てて考え込む。"竜心会"と言われてもぴんとは来なかったが、名前を知れただけでもよしとしよう。それよりも、だ。
「ねぇ、総力戦で狂走連合が負けたら、如月や貴方達、消されるんじゃないの?」
ヤクザの消す、は不良達がいう潰すや殺すとは訳が違う。本当にこの世からの抹消だ。それをわかって彼らは勝負を仕掛けているのだろうか。
その問いかけに塚田は押し黙った。苦い表情を浮かべ、吐息を漏らす。
「……俺達は会長の命令に従うまでだ」
「そう……」
忠誠心は厚い。あんな冷酷な男のどこに忠誠を誓えるのか甚だ疑問だが、乙葉の知らない素晴らしい一面を持っているのかもしれない。
その後二人の間には沈黙のみが流れた。
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