10:和解
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倒しても倒してもきりがない。そう思えるほどに敵は多かった。東関狂走連合の亮や幹部ほど強くはないにせよ、こうも敵の数が多いと息を整える暇もない。短期決戦を得意とする乙葉にとってこの状況は非常に不利だった。
「堕ちろ!!はぁ!!」
敵の米神目掛けて蹴り飛ばす。肩で息をしながらも、一人一人確実に仕留めていく。
案の定、というべきか。ヒロシと横倉は戦力としてはほとんどないに等しかった。二人を殺ろうと近づいた男を横から蹴り飛ばす。
「このアマがぁ!!」
「乙葉、アブねぇ!!」
攻撃後の僅かな硬直の隙を狙って、敵が攻撃を仕掛けてきた。ヒロシの声で敵の攻撃は気づいたが、身体がついてこない。
また小田原と副島に怒られそうだな、とどこか客観的に考えながら歯を食いしばり、来るであろう痛みに備えた。
「乙葉に手ェ出すんじゃねぇ!」
男が視界からフェードアウトする。木村と戦っていた筈の狂犬が乙葉を庇うように立っていた。
「怪我ねぇか?無理すんじゃねぇぞ!」
「……えぇ、大丈夫よ!」
身を案じる狂犬に、しっかりと返事をする。再び木村へと走っていく狂犬の背を見ることなく、乙葉も敵勢力へ向かった。
狂犬はいったいどこまで強くなるのか。戦いの中で確実に強さを手に入れている彼が末恐ろしい。いずれはあのヤスオですら、倒せそうだ。
「ほんと、羨ましいくらい強いわね」
敵の鳩尾にパンチを食らわせて昏倒させながら静かに笑う。
木村を圧倒的な力差で、狂犬はねじ伏せた。数も減り、指示をしていた木村が倒れたのを見て残っていた敵はそそくさと逃げ去っていった。
何とか戦闘は終わったようだ。全員肩で息をして満身創痍だ。この前の傷が開いたのか今回の喧嘩では大した怪我をしていないはずなのに、身体のあちこちが痛い。
倒れていた木村が呻きながらも、身体を起こす。
「ヒロシさん、木村の野郎……とどめ刺しちゃっていいっすか?」
「待って……木村くん?今回のこときちんと話してもらうわ。何か理由があるのでしょう?」
なにも聞かずにトドメを刺そうとする横倉を止め、乙葉は木村へと歩み寄る。暫しの沈黙の後、木村はゆっくりと話し出した。
「……実は……弟が路上で、ヤクザにぶつかって、法外な慰謝料を請求されてたんすよ……」
そこに目をつけた田城が兄である木村にヤクザに話をつける代わりに極東連合潰しを持ち掛けた、ということらしい。いかにも田城がやりそうなゲスいやり口だ。家族を人質に取られれば、乙葉でも裏切ってしまうだろう。
「田城の野郎……人間じゃねぇ……」
「なるほど……そういうことだったのかい……」
振り返るとヤスオとレイナ、それに嵌められていたであろう極東連合のメンバーが集まっていた。皆かすり傷はあれど、大した怪我もしていないようだ。
「スイマセンでした!俺が……俺がみんなをワナにはめました!」
木村は謝罪し、地面に頭を擦り付けて土下座をする。話を聞いていたヤスオが険しい顔で木村を見下ろした。そして、おもむろに胸ぐらをつかみ、無理やり立たせる。
「俺ぁ悲しいぜ木村……なんで俺のとこに相談しに来なかった?」
「そりゃーヤスオみてぇなスケールの小せぇ野郎にゃ、相談できねぇだろ?でもスケールの超デケェ俺様には相談できたハズだろうが木村ぁ?」
乱暴な行動にヒロシがヤスオを制止しようとしたが、言葉を聞いて動きを止める。ヤスオも菊永も木村を今回の一件を責めている訳ではない。ひとりで解決しようとしたことを怒っているのだ。
「す、すみません……でした……」
みんなの言葉を聞いて木村は涙ぐみ、謝罪する。乙葉はぼろぼろと涙を溢す木村の背中を優しく撫でた。
「木村、もし弟の件で誰か言ってきたら、俺らが何とかしてやる。だから田城なんぞの言うこたぁ二度と聞く必要ねぇぞ。分かったか木村?」
「は……はい!あ、ありがとうござい……ます……うっうっ……」
これで今回の一件は落着だ。田城のやり口には腹立たしいが、極東連合により強い結束力をもたらしてくれた事を感謝しなければならない。
湿っぽい空気感を入れ換えるようにヒロシがよし!と声を上げた。
「みんなでラーメンでも食いに行こうぜ!」
突然の提案には皆少し呆けたが、またラーメンかよ、というヤスオのツッコミに全員が笑った。
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