喧嘩番長
- ナノ -

07:HELP!!


携帯の着信音が鳴り響いた。電話に出ようとしてポケットから取り出した瞬間に着信が切れてしまった。一体誰だったんだ、と
画面を確認する。

御子神乙葉ーー画面に表示された名前を見てトモヤは瞠目した。以前気付かずに烈火から守った白銀学園の番長だ。何故、あの人がわざわざ電話をしてきたのだろう。掛け間違いかもしれないがあの人がそんな間違いをするようには思えない。不思議に思って、念のために折り返してみた。

『ーーお掛けになった電話は現在、電波の届かない所にある、又は、電源が入っていないため……ーー』

「あぁ?どういうことだ?」

何故か繋がらない電話に嫌な予感が胸を過り、勢いよく立ち上がる。椅子がガタンと騒々しい音を立てて倒れたが、トモヤは気にせずそのまま急ぎ足で教室を飛び出した。

加藤の呼び止める声が背後から聞こえたが、そんなことは気にしていられなかった。

「っても、どこに行けば……」

勢いで学校を飛び出したが、彼女の所在など検討もつかない。とりあえず白銀学園まで行けば何か分かるかもしれない。電車に飛び乗り、最寄りの駅へと向かうことにした。

電車を降り、白銀学園への通学路を走る。

「ーーねぇ、聞いた?さっき不良同士の喧嘩があったって……」

「えぇー怖い……」

すれ違った女子生徒のお喋りが聴こえて、足を止める。女子生徒に掴みに掛かるように声をかけた。

「お、おい!あんたら!その喧嘩、どこでやってた!?」

「……えっ、商店街の向こうだけど……」

トモヤの剣幕に女子生徒はドン引きしつつも答えてくれた。その答えを聞いた瞬間に弾けるように駆け出す。一刻も早く、行かなくては。

息が切れるのも構わず、全速力で駆け抜けた。


がくりと膝をついた。肩で息をしながら、目の前で涼しい顔をしている男を睨み付ける。切れた唇がずきずき痛む。

「ぁ、姉御……」

流石に多勢に無勢だった。喧嘩で膝をつくのはいつぶりだろう。背後に倒れる小田原ももう戦えそうにない。

「……如月、だっけ?ほんと、ふざけてるわね」

問答無用でぶん殴られて、身体のあちこちが痛くて気分は最高に悪い。折角彼に貰ったストラップも喧嘩の最中に踏みつけられて、もはや原型をとどめていない。

苦々しげに顔をしかめて、口の端に零れる血を服の袖で乱暴に拭った。

「もう一度聞くが……女王、東関狂走連合に入る気はないか?」

再度その問い掛けを聞いたとき、ふざけているのかと思った。

「あぁ?姉御に手ェ出しといて何言ってんだーーぐぁっ!」

「会長が喋ってんだ!テメェは黙ってろよ!!」

乙葉より先に吠えた小田原が不良に蹴り飛ばされる。瀕死の小田原は抵抗することも出来ず、そのまま沈黙してしまった。その姿を横目に確認して、歯噛みする。

もう少し私が強ければ、小田原もこんなことにはならなかったのに。

「それ本気で言ってる?」

「あぁ、俺は女王、お前を結構気に入っているんだ」

「ふぅん?それは、結構な事だわ……」

人をボコボコにしてから言う台詞ではないし、こんなヤバい奴に気に入られても全くもって嬉しくはない。顔は整っているけれども。

息を整えるようにふぅと息を吐き出す。

今までの経験上、こういうヤバい奴は断るととんでもない事をしでかすのは分かっている。しかし、極東連合に与している以上、相手の言葉に頷くわけにはいかないのだ。それに小田原の怪我も心配だ。早くこのいざこざを終わらせて病院に連れていかなくてはならない。

「悪いけど、東関狂走連合なんかには入らないわ。それに交渉の仕方を覚えた方がいいわよ」

ガッーー

頬に走る激痛。容赦のない右ストレートが乙葉の頬を打ち付けた。ガードも出来ず、地面に倒れこむ乙葉を如月は更に蹴り飛ばす。般若の形相で乱暴に何度も踏みつけて、蹴りつけ、その恐ろしさに如月の部下も呆然としていた。

「……ぅ、う……」

「俺の誘いを断るとはな!!馬鹿な女だ!!」

乱暴な攻撃が急所に入ることだけは何とか防いだが、もう意識を保つのは限界だった。がくりと項垂れ、乙葉の意識は痛みとともに闇へと飲み込まれた。



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