- ナノ -

06:一抹の不安

ルーナがここに来てからもう五年が経とうとしていた。5歳だったルーナももう10歳になり、身長も中身もかなり成長した。
勉強も戦術や体術なども習うようになり色々と忙しく、目まぐるしい毎日を送っていて大変だが毎日が楽しい。マルティナとも切磋琢磨しあって、良いライバル関係を築いている。

魔法もかなり出来るようになり、普通の魔法なら一通り発動できるようになった。昔からやりたいと思っていたルーラはいまだに出来ないがまだ諦めてはいない。

城での立場も少し変わり、ルーナも時折兵士の真似事をするようになった。とはいえ大人と同じようなことはできないので、もっぱら怪我をして帰ってきた兵士の回復ばかりではあったが、衛生兵としてそれなりに役に立てていると思っている。
もう少し大きくなったら街の外の任務にも、とグレイグがいってくれているので楽しみだ。

「ルーラ!」

安定の中庭で魔法の練習中だが、やはりこの魔法だけは発動している気配すら感じない。とりあえず毎日一度、二度は試しているがやはり駄目だ。

「マヒャド!」

気を取り直し、べつの魔法を唱える。氷の塊が切り株を攻撃した。もうこの魔法も完璧だ。

ふぅ、と一息をついて、ルーナは空を見上げた。
グレイグもホメロスも任務でいない。ついでに言うとマルティナも陛下も、だ。なんでもユグノア王のご子息様が産まれたとのことで各国の王を招いた盛大な宴があるそうだ。それに呼ばれた陛下と姫様の護衛に二人が駆り出され、ルーナひとりだけが城に残されている。淋しくないといえば嘘になるが、ルーナも子供ながらに仕方ないことを理解していた。
大きくなればどこへだって行ける。もう少しの辛抱だ。

「陛下がお戻りになられたそうだぞ!」

何やら伝令を聞いたらしい兵士が血相をかえてエントランスへ走って行った。
かなり長く城を空けると聞いていたのに随分早い帰城だ。嫌な予感を感じてルーナも急いで兵士の後を追いかけた。

ーーおい!治癒士を呼べ!

陛下と共に向かっていた小隊の半数しかいない。それも殆んどが大なり小なりの怪我を負っている。

「私もお手伝いします!」

急いで怪我をした兵士の元に駆け寄り、スティックを掲げて回復魔法を唱えた。

「ベホマラー!」

淡い回復の光が兵士達を包む。怪我を負い、辛そうな顔をしていた兵士の表情が少し和らぐ。それにほっと安堵の息を吐き出し、まだまだ傷ついている兵士に回復魔法を重ねた。

「ルーナ、ここにいたのか。陛下の治療も頼む」

「グレイグ!わかった!ーー……!?」

治療を頼むと言われ、陛下を見た瞬間魔物のような嫌な気配がした。ぎょっとして陛下を凝視する。まだ気配の探知には慣れていないが今までの陛下とは違う薄気味悪さがあった。

「ルーナ?どうした?」

中々動こうとしないルーナにグレイグが再度声をかけてきた。その声で我に返り、ルーナは慌てて陛下へ治癒魔法を唱える。

さほど大きな怪我はなかったため少し魔法をかけるだけで陛下の傷は完治する。近くで陛下を確認したが、やはり姿形は何ら変わらないいつもの陛下そのものだった。やはり気のせいだったのだろうか。

一抹の不安と疑問を感じつつも、兵士の治療に専念した。


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