勇者一行は背後から現れた。上手くゴンドラを乗り継いで、兵士達の目をかい潜りステージの後ろまで来たらしい。
町中のいたるところに兵士を配置していたというのに、いったい全体彼らは何をしていたのか甚だ疑問だ。ぼんやり歩き回るだけが見回りの役目ではないのだと厳しく教育する必要性があるかもしれない。
「チョロチョロと目障りなネズミ共め!悪魔の子もろとも、我らでカタをつけてくれるわ!」
「レッドオーブは返してもらうわよ!覚悟なさい!」
ホメロスが双剣を抜き、構える。ルーナも同じように両手杖を構え、先行でホメロスにバイキルトを掛けた。更に続けて攻撃魔法を唱える。
「イオナ──」
「させないわよ!メラ!!」
火の玉に詠唱が遮られる。邪魔をして来た赤い服の少女──ベロニカを睨み付けた。挑発するようにベロニカはべーっと舌を出してくる。随分となめられているようだ。
「魔法で負けるわけにはいかないのよ!メラゾーマ!」
より巨大な火の玉を出現させ、ベロニカにぶつける。間一髪でそれは避けられてしまい、地面で弾けた。
「くそっ!ネズミ共が、なめおって!!」
ホメロスの声にはっとして振り返る。イレブンとつばぜり合いになっていた。その後ろから奇妙な格好の青年──シルビアが近付いているのが見えた。ベロニカがこちらに魔法を唱えていたが無視して、即座に魔法のターゲットを切り替える。
「ヒャダルコ!──くっ、」
ルーナがヒャダルコを発動すると同時に左側から光の爆発が発生し全身に激痛が走った。倒れそうになったがなんとか踏ん張り、ホメロスの援護に回る。
先ほどのヒャダルコもうまくイレブン達を遠ざけることができたようだ。
「援護するわ!スカラ!」
「あんたの相手はあたしでしょ!!」
ベロニカをスルーしていたのが気に入らなかったようで、苛立った様子で叫ぶ。それと共に飛んできたメラミをバックステップで避ける。ずきりと身体が痛んだが大した問題はない。
「「イオラ!!」」
同タイミングで同じ技が発動する。光と光がぶつかり合って大爆発を起こしたが、相殺され大した意味はない。
「ルーナ!いつまで遊んでる!?そんなネズミとっとと殺せ!ドルクマ!!」
「きゃあ!」
真横から飛んできた闇の魔法がベロニカに直撃する。突然の攻撃に小さな身体はぶっ飛びステージを転がった。
「お姉さま!今回復いたします!ベホイミ!」
素早く緑の服の少女──セーニャが駆け寄り、回復呪文を唱える。その隙を逃さずに、ルーナも大魔法を放とうと杖に魔力を込め、掲げた。
「そうはさせないわ!」
ぎゅんと伸びたムチがルーナの杖に巻き付き、手元からかっさらって行った。中途半端に発動したベギラゴンの火の粉が自身に降りかかる。顔を手で庇いながら、手元を離れてしまった杖を探す。
無くても魔法は唱えられるが、あれはルーナの大切な杖なのだ。
「私の杖を返しなさいっ!」
「そう言われて返すと思う?」
シルビアは再びムチを振るった。弾き飛ばされた杖を見てルーナは息をのむ。宙を舞う杖の向かう先は運悪くも、海の方角。
考えるよりも先に身体が動き出していた。
「ダメっ!!」
「ちょっと!ダメよあなた!!ここの海は鮫が……!」
まさか杖を取りに走るとは思わなかったのだろう。シルビアのぎょっとした声が真後ろで聞こえた。
ベロニカとセーニャの脇を走り抜け、杖に手を伸ばす。
これだけは無くすわけにはいかない。だって、ホメロスから貰ったものだから。
「……っはぁ、は……取れた……」
なんとか間一髪で杖を掴むことができた。真下には深青が広がっている。あともう一歩踏み出していたら海に落ちていただろう。
息を切らしながら、杖をぎゅっと握りしめた。安堵した瞬間に待ってましたとばかりに身体が痛みを思いだし、ルーナはその場に膝をつく。
「くっ……ホメロス様の援護をしなきゃ……!」
自分の身体の回復もほどほどに、援護をしようと立ち上がったが、鋭い声がそれを制した。
「もう魔法は唱えさせないわよ!マホトーン!!」
魔法を唱えていたルーナの声が途中で途切れる。声を封じられ、魔法を発動が出来なくなった。苦渋に顔を歪める。嫌なタイミングでマホトーンを掛けられてしまったものだ。
内心で悪態をつき、ベロニカを睨み付けた。
ルーナという援護を無くしたホメロスは呆気なく膝をつく。鋭い音を立てて弾き飛ばされたプラチナブレードが水路に落ちていった。