なんとか悪魔の子の仲間のひとりの盗賊を捕らえたものの、肝心のイレブンはまだ捕まえられていない。ホメロスはイライラとした様子で兵士に指示を出しにいって今は側にはいない。
手持ちぶさたになっていたルーナはダーハルーネの広場の柱に縛り付けられた盗賊に近づき、声をかけた。
「あなたカミュっていうのね」
「……」
突然声をかけられて、盗賊ーーカミュは一瞬驚いたように目を開いたが、口はつぐんだままだった。
「久し振りね。あの後私陛下にすごく怒られたのよ」
「へぇ、そりゃ良かったな」
減らず口は健在のようだ。何も喋ってくれないと思っていたから、言葉が返ってきて内心驚いた。
「ねぇ、どうして貴方は悪魔の子と一緒にいるの?」
「さぁな」
答えたくないものには答えないらしい。そこは別に構わない。こちらも暇なのだ。
「あの赤い服の女の子、かなりの魔法の使い手ね。私も物凄く努力したつもりだけど、上には上がいるものね」
「魔導士ってのは相手の強さがわかるもんなのか?」
次の言葉はどうやらカミュの気を引ける内容だったらしい。顔をこちらに向けて、質問を返してきた。
「魔力の探知は魔導士の基本よ。魔力が多ければ手練れの魔導士って判断できるの」
「へぇ……それって物とかに宿った魔力も分かるのか?」
「物?そうね、大抵のことならわかるわ。それが悪いものか、良いものかっていうこともね」
その言葉を聞いたカミュがほんの少し悔しそうな顔をしたのが気になった。過去に何かあったのだろうか。聞いてもはぐらかすだけだろうとそこを深く追及することはしなかった。
日は傾きもうじき夕暮れ時だ。穏やかなオレンジ色が辺りを照らしている。
カミュから目を離し、水平線へと沈もうとしている太陽を眺めた。
「……悪魔の子は……イレブンはきっと貴方を助けにくるのでしょうね」
ひどく穏やかな表情をする青年だった。きちんと正面から見えたことはないが、彼の周りには暖かな光がある。優しい人だと思う。だから絶対ここに来る。
もしルーナ自身が敵の手に落ちたらホメロスは助けに来てくれるだろうか。助けに来てくれるか微妙なところだ。でも助けに来てくれたらすごく嬉しいのだけれど。
「貴方には悪いけど……私はあの人のためにイレブンを全力で捕らえるつもりよ」
「何を話している」
唐突に第三者の声が割り込む。
振り返ると猛烈に機嫌の悪そうなホメロスがいた。眉間のシワがいつもより多い。
「ごめんなさい。この盗賊から情報収集しようと思ったのだけど、なにも話してくれなくて……」
「ふっ……こんなネズミから出てくる情報なぞ、大したことなどない」
普通に会話をしていたと言うと更に機嫌を損ねそうだと感じ、ルーナは然り気無く嘘をついた。
情報に関してはそうとは限らないとは思うのだが、機嫌の悪いホメロスにはあまり反論しない方が吉だ。
「街中を兵士に見回らせているのだが、まだ見つからない……いったいどこに隠れたんだドブネズミ共め」
「でも助けに来ることは確実だから、ここにいれば必ず会えると思うわ」
「来なければこいつの命が無くなるだけだ。拷問して惨たらしく殺してやる」
「……そう、ね」
ここ最近ホメロスの様子がおかしい。昔から口は悪かったがこんなに攻撃的な発言はしなかった。ホメロスから滲み出る闇の気配が怖い。
静かにホメロスから目を反らし、杖を握りしめた。