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08:成人の儀式2

大丈夫と言っているのに救護室へ担ぎ込まれ、過剰なほどの回復魔法を掛けられた。お陰で身体は一瞬で全回復だ。
そんなこんなで陛下に呼び出された。十中八九、ブラックドラゴンの件だろう。まさか陛下にまで怒られるのか?とやや不安が心中をよぎる。
ボロボロの兵装では陛下の前には出れぬと洗い替えの物に着替えて、焼け焦げた兵装はもう捨てた。

「ただいま参りました」

恐る恐る玉座の間に入った。正面の玉座には陛下が座っている。そして、その両サイドにはグレイグとホメロスが控えていた。一兵卒のルーナが玉座の間に入ることなど数えるほどしかないのでやけに緊張する。どぎまぎしつつも、陛下の前で立ち止まり敬礼をした。

「うむ。先刻の件しかと聞いた。たった一人でブラックドラゴンを倒したとな」

「は!ですが、見張りの兵を救うことは出来ませんでした……」

「確かに彼らの犠牲は痛ましいが、お主の働きで被害を最小限に食い止められたのだ。あのままブラックドラゴンを放置していたら更なる死者が出たやもしれぬ」

そこで陛下は言葉を区切った。

「して、お主は今年で成人になるのであったな」

話の内容が変わったことに疑問を抱きつつも、はい、と返事をする。ルーナの返事に陛下は深く頷いて、続きを話しだした。

「そこでブラックドラゴンを倒した功績を称え、お主に宮廷魔導士の称号を与える」

「は、えっ……!?」

はい。と流れのまま返事をしそうになり、意味をうまく理解できずに素の反応をしてしまった。宮廷魔導士とは、いったい何だ。

「あ、ありがたく頂戴いたします……?」

とにかく返事をせねばとあわあわしながら頭を下げた。戸惑いを隠せないルーナの様子が面白かったのか、陛下が笑う。

「はっはっ!その様に戸惑わずとも良い。グレイグとホメロスと共にデルカダールを支える強き柱となってほしいのだーーグレイグ、あれを」

グレイグが返事をしてルーナの前に何かを持ってきた。赤いクッションの上に控えめな装飾のサークレットが乗っている。横の部分にはデルカダールの紋章である双頭の鷲が象られている。

「これは……?」

「そなたの功績を称えこのサークレットを与える」

キラキラと金に輝くそれをルーナは見つめる。こんな綺麗で高価そうな物を受け取っていいのだろうか。

「ルーナ受け取るといい。お前にはその資格がある」

ホメロスに促されても、少し悩んでしまった。そしておずおずとサークレットを手に取った。重みは殆どない。魔力を上げる効果があるのだろう。じわりと力が増幅したのを感じた。

「……ありがたき幸せです」

サークレットを胸に抱き、陛下に感謝の言葉を述べる。

「うむ。実を言うと、そのサークレットは成人祝いにしようと思っていたのだが、まさかお主がブラックドラゴンを倒すとは思いもよらなんだ」

なるほど、とルーナは納得する。ドラゴンを倒したのはたったの二時間ほど前だというのに、通りでやけに準備がいいと思った。だがしかし、何もないのに成人祝いにサークレットを受けとるのもなにやら心苦しいだろうし、ドラゴンを倒せて本当に良かった。

「それだけの功績があれば、お主にそれなりの地位を与えても文句を言うものもおらんだろう」

「あ、そういえば、その宮廷魔導士の地位とは……?」

聞き覚えのない称号の立場はどういう物なのだろうと陛下に尋ねる。

「ふむ。将軍と同等の地位と考えておるが不満か?」

「は!?いえ、不満はありませんが、こんな若造に将官が務まりますでしょうか……」

成人していきなり将軍クラスだなんてどんな出世街道まっしぐらだ。驚きすぎて頭の処理が追い付かない。
流石にグレイグやホメロスと自身が同じレベルの人間だとは思えないし、思わない。

「お主なら問題なくこなせると思うが、不安なら暫くはグレイグとホメロスの補佐をすると良い」

「買い被りすぎてす、陛下……」

どれだけ期待されているのだ。期待され過ぎて少々怖い。
それはともかく将軍補佐なら安心してできそうだ。二人は気のおけない仲だし、しっかり本領発揮できるだろう。

「はっはっは!それだけお主が優秀と思っておるのだ。そうだ、グレイグ、ホメロスよ。ルーナに渡すものがあるのではなかったか?」

二人が渡すもの?首をかしげていると、目の前にずいっと差し出された。

ひとつは華やかな魔導士の服。

ひとつは精巧な作りの両手杖。

「「成人おめでとう、ルーナ」」

二人が声を揃えて祝辞を言う。まさかのサプライズの連発にぽかんとしてしまった。

こんなに幸せで良いのだろうか。
嬉しすぎて、じわりと目尻に涙が浮かんだ。

「ありがとう……!私すごく幸せだわ」

両手で抱き締めるように、それらを受け取った。ぽろぽろと泣きながら、笑う。

そんなルーナを見て皆が笑った。本当に幸せなひとときだった。


グレイグからもらった服が思いの外露出が多く、怒ったのはまた別の話だ。



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