貴方へ。
ニセモノを執拗に追いかけるが、中々にしぶとかった。
私は心の中で舌打ちし、ニセモノを追い詰めるために壁となる。
「憎い!憎い!殺してやる!」
憎かった。本当に?私にはもう分からない。
私はエイダ?私はカーラ?二つの意識が混ざり合って、どちらが本当なのか分からない。
ただ怒りとも悲しみともとれない何かを目の前の彼女に叩きつける。
彼女は呆れたように、ため息をついた。
「そろそろお休みの時間よ……カーラ」
「黙れ!私はエイダよ!そんな名前じゃない!」
その名前を呼んでいいのはあの人だけ。
壊れた世界で共に生きると決めた、あの人だけ。
怒りに任せて、液体の礫を飛ばす。
彼女はそれを上手く転がって避けた。一筋縄ではいかない。
銃が私を貫くけれど痛みはない。液体の身体とは便利なものだ。
素晴らしい進化だ。あの人にも教えてあげよう。
けれどあの人は私がこんなでもあの時の台詞を繰り返してくれるかしら。ちょっぴり不安になった。
「これで終わりよ」
ダァン――
銃声が響き、私の後ろで何かが破裂した音がした。
冷気が一瞬にして広がった――液体窒素だ。
ぱきぱきと身体が凍り付いていく。液体の身体は瞬時に凍結して、動かなくなる。
彼女は哀れんだ眼差しで私を見やり、そして小さく息を吐き出した。
「世界を崩壊させようと必死だったわね……」
銃の弾を込め、彼女はゆっくりと奥のリフトへ歩いていく。
「結果、自分自身が崩壊した……これが望んでいた結末だったの?」
最期の力を振り絞り、私は彼女に這いずりよる。まだ、まだ死ねないのよ。私は答えていないから。
死に物狂いの私に彼女は目を細める。私は彼女の黒いブーツのつま先に手を伸ばす。
「……まだ、まだ終わらないわ……私の最高傑作が……私の思いを継ぐのよ……」
「最高傑作?」
「ふふ……」
彼女は眉を顰めて聞き返してきたが、私は答えない。
その代わりに違う言葉を紡ぐ。
「好きよ……ヴェント……さよなら」
ぐちゃりと私の身体はどろけて消えた。
そして、私の意志も。魂も、どこかに消えた。
貴方に、届くかしら。
私の、最期の想い。ねぇ愛しているわ、ヴェント。
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