- ナノ -


森の奥の洋館:02







更に人数が減り、ホールはしんと静まり返っていた。
時折鳴る雷鳴がホールに青白い光りを放ちながら鳴り響く。そんな中で瑞希は険しい顔でアルバートに近づいた。
クリスとジルとバリーが去った事で漸くアルバートと心置きなく会話が出来る。

「一体、何を企んでるんだ……まさかまだあのウイルスを研究してるとか言うんじゃないだろうな?」

「だとしたら、どうするんだ?」

質問に質問を返され、瑞希は眉間に皺を寄せてアルバートを睨んだ。

「……忠告しておいてやる、いずれ身を滅ぼすってな」

瑞希の言葉にアルバートはふんと鼻で笑い、俺の隣を通り過ぎていく。
ジル達が帰ってくるのを待つ気は端からないらしかった。

「言っておくが、ウイルスをばら撒いたのはマーカスだ」

「マーカス?所長は10年前に死んだんじゃなかったか?」

殺したのは俺達だ。忘れもしない。蛭を研究しているマーカスを背後から撃ちぬいた。
生きた人間を殺したのは、あれが最初で出来れば最後になって欲しいものだ。
しかし結局俺は研究を止めた。アルバートとウィリアムは競い合うように研究に没頭していたけれども。
あのウイルスは危険すぎたのだ。研究すればするほどにそれを理解し、畏怖するようになった。
白衣を纏う事すらストレスになった時期もあった。

瑞希は己の背後にいるアルバートを肩越しに振り返る。

「どうやらウイルスに汚染された蛭共で復活したらしい」

「それはそれは……怖いな……」

「安心しろマーカスはきっちり殺した。ウィリアムが施設一つ爆破してな」

施設一つ爆破した。その言葉に瑞希は重いため息をついた。
アンブレラの大好きな爆破で証拠隠滅大作戦だ。中に生きている人間がいようと化け物諸共爆死させる。
それにしてもウィリアムがいるなんて聞いていなかった。瑞希がS.T.A.R.S.に入隊してからは一度も会っていない。
瑞希自身、手紙を書くような性分ではないため文通もしていないから、彼の安否はさっぱり知らない。

「ウィルは元気なのか?」

「ああ、相変わらずのようだ……ヤツもお前の事を気にしていたぞ」

相変わらず、という事は研究に没頭して徹夜続きだったりするわけか。
まったくウィルらしいが、いつかうっかり自身の研究しているウイルスに感染したりしないか心配だ。
何にせよ、生きているならそれでいい。俺はそうか、と相槌を打ち小さく笑った。
俺はアルとウィルが大切なんだ。だから、犯人がアンブレラだって告げる事を出来ないでいる……。
つまるところ、全てを知りながら誰にも告げない俺も共犯者、と言われても反論できない。

「お前にも協力してもらわなければな」

「……悪いけど、アルに加担するつもりはないぞ」

「何、館内にいるB.O.W.と戦うだけの簡単な仕事だ。実戦データが欲しいからな」

せせら笑ってアルバートは歩き出し、ジル達が消えた扉とは逆方向の扉に向かう。
その背中に向けて瑞希を射抜くような視線を投げつけ、ふざけんな!と心の中で盛大にアルバートを罵った。
こうなったらあんまりB.O.W.と戦わないように切り抜けてやろう。

妙な対抗心を胸に、瑞希は二階に上がり東側の扉に向かって歩き出した。






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