悪夢の前触れ:01
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うんざりだった。だから、こんな研究はやめろと言ったのに。
ラクーンシティの警察署、S.T.A.R.S.に宛がわれた一室のデスクに片肘をつき、新聞を眺めながらため息を吐いた。 新聞のトップニュースを飾るのは、ここ最近ラクーンシティで起きている猟奇的殺人事件だ。 その新聞によると既に7名の犠牲者が出ているらしい。犠牲者はいずれも身体のどこかしらを貪られているという。 人間のような歯型が付いている事から、非常に猟奇的、狂気的な殺人事件だとラクーンシティに住む人々は怯えている。
(一体どうやって収拾つけるつもりなんだ……)
新聞をぐしゃりと自分のデスクの端っこへ放り投げ、男は眉間に皺を寄せた。 こんなにも被害が出てしまっては事態を誰にも気付かれずに収めるのは到底無理だろう。 それに早い事手を打たなければあれはいずれラクーンシティを飲み込み、下手をすれば全世界に広がるかもしれない。 脳裏に過ぎる最悪の事態を振り払うように男は頭を振った。 男は再度、深いため息を吐き出してから、ゆっくりと視線を壁に掛けられたシンプルな時計へ向かわせる。
――7:47。そろそろ行かなければ、エンリコが五月蝿い。仮にも、隊長補佐の人間が任務に遅刻でもすれば、評価はガタ落ちだ。 緩慢な動きで立ち上がると、デスクに無造作に置いたサムライエッジを手に取り右太もものガンホルダーへ仕舞う。 げんなりとした表情で男はサムライエッジの隣に置いていた銃弾を腰のパウチに押し込んだ。
少なくとも今回の任務はかなりのハードな物になる筈だ。あの研究で出てきたヤツらが敵だろうからだ。 通常の任務よりも倍ほどの予備の弾を準備し、もしもこのサムライエッジが使えなくなった時の為にもう一つ銃を持っていく。 大型拳銃のデザートイーグルをデスクの一番下の引き出しから取り出して腰へと取り付けた。 その間の動きは非常に鈍く、男がどれほど任務に乗り気ではないかを示していた。 この任務に行かなくていいと言われたならば男は小躍りしていただろう。
幾らゆっくりと準備をしようとも、時間は男の心中など全く気にもせず進んでいく。
最後に大型のナイフを左の肩に付けて漸う準備は整った。 さあ早く行かなくては。先ほどからの嫌そうな顔のまま男は部屋を出た。
カツ、カツ、と廊下に自分の足音が響く。 曲がり角から見覚えのある影がやってきた。 金の髪を後ろへ撫で付け、屋内だというのに目元を覆い隠すサングラス――我らが隊長のアルバート・ウェスカーだ。 アルバートは男の顔を見るなり、可笑しそうに口元を上げて近づいてきた。
「ミズキ、随分嫌そうな表情だな」
「……当然だろ。こんな誰かの尻拭いのような任務……」
任務じゃなければ放り出している。と、男――春野瑞希は肩を竦めた。 瑞希の言葉にアルバートが眉を寄せ、声を低くする。
「あまり良い発言ではないな。まるで犯人が誰か知っているような口ぶりだ」
「……白々しい」
全部知っているくせにあえて何も知らない振りをする目の前の男に瑞希は口をへの字にして睨んだ。 そんな瑞希の眼光も物ともせず、怖い怖い、なんていうアルバートに本日何度目かのため息をついた。 これ以上相手にしていられないと瑞希はその横を通り過ぎる。
「ミズキ」
名前を呼ばれ、立ち止まる。 何だ、と聞き返したが、振り返る事はしなかった。 背後でアルバートがクク、と押し殺すように笑う声が聞こえ、瑞希は眉間に皺を寄せる。
「ヘリと……奴らには気をつけるんだな」
「……分かっているさ」
暫しの沈黙の後、瑞希は今度こそ屋上へと向かった。
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