- ナノ -


過去の記憶:02




部屋の中は随分と埃っぽく、ありとあらゆる物が乱雑に詰め込まれていた。
顔に掛かりそうな位置に作られた蜘蛛の巣を振り払い、手狭な部屋をぐるりと見回す。
片足の折れたロッキングチェアに傘の歪んだライトに壊れたショットガン……どうやら破損物の寄せ集めがここに置かれているようだ。
埃の被り方が他とは更に酷いところを見ると、人がいた頃もあまり出入りされなかったのだろう。

めぼしい物はないかと机の引き出しを開けてはみたが、どこもすっからかんだった。

「早く出よう。鼻がむずむずする」

「そうだな、何もないようだ……って早いぞ、ミズキ」

クリスが言葉を言い切るよりも前に瑞希は鼻を押さえ外へ出た。埃っぽいところは嫌いだ。後研究室も。
呆れたようにクリスが此方を見てきたが、そんな視線なんて微塵も気にせず瑞希は突き当たりの扉に向かう。
こら、待てと慌ててクリスが瑞希の背中を追いかける。

ドアノブのキーホールを確認する――鎧の紋章が刻まれている。
先ほど手に入れた鎧の鍵が使えるようだ。鍵穴に差込、半回転させる。カチャ、と鍵の外れる音がした。

「暗いな……」

電気が壊れてしまっているらしい。薄暗い廊下は窓から入る本の少しの青白い光だけが唯一の光源だった。
正面に真っ直ぐ続く廊下と右側にもう一つ。右側は正面に比べればまだ明るい。
目を凝らしながら、正面を確認する。一番奥の曲がり角のところに付いている小さな電球が申し訳程度に光を放っているのが見えた。ゾンビの姿はないようだ。

「暗い方から行くか?」

クリスの問いかけに瑞希は頷いた。
コツ、コツとブーツのヒールが木製の床を音が静かな廊下に響く。辺りを注意深く見回し、重要なアイテムがないかをチェックしながら進む。
割れた窓から入り込む冷たい風がカーテンを揺らめかせる。

曲がり角を曲がるとすぐ扉にぶつかった。鍵は掛かっていない。
クリスが先行し扉を開けてくれた。

「何だ、ここ?」

屋内なのに噴水があり、草が生えている。
水気があるせいか、壁には苔が付き他の部屋より薄汚い。
地を這うパイプに躓かないように注意しながら噴水の奥を確認しに行こうとした。

「うをっ!?」

が、噴水の近くをのたくっていたやけに太いツタが生き物のように動き出し、瑞希を目掛けて身体を撓らせてきた。
間一髪でツタを避け、ツタを凝視する。一本や二本ではない、十本ほどあるツタがにゅるにゅると動き、近づこうとするものを狙っている。

「生き物、なのか……?」

「いや……植物だな」

ウイルスに感染した。とは口に出さなかった。あのウイルスは人間だけでなく植物にも感染する。
ただの植物も人を殺すようになる。とんでもなく恐ろしいウイルスだ。

この植物をどうにかしなければ、奥を調査するのは無理だろう。
諦めて別の部屋を調査する事にした。

来た道を戻り、今度は右側に伸びた廊下を進む。
右側には扉が三つあった。正面突き当たりに一つ、左右に一つずつ。
とりあえず一番手前にあった左手の部屋に入った。

「トラ……?」

部屋というにはあまりにお粗末過ぎる小さな場所だ。
壁に取り付けられているのは石で出来たトラの頭部を象った像で、その手前には同じ素材で出来たプレートが立てかけられている。

「"青と黄色の光を持つトラ"?一体どういう意味なんだ……」

「……多分、目の色の事だ」

プレートの文を読んで首をかしげたクリスに瑞希は素早く答える。
トラの目元は陥没しており、丸い何かがはめ込めるようになっているようだ。
が、瑞希達はそんなはめ込むようなものなど持っていない。恐らく館の何処かにあるのだろうが、まだ見つけ出せていない。

仕方なしに部屋を出て次の部屋へ向かった。





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