VSデボラ:01
少し進んだ先でレオンさんと合流する。 ヘレナさんは反対側に落ちてしまったらしくてひとりで頑張っている。
もう少しで一番下、と言うところでデボラさんが妨害してきた。 ロープでわたっていたレオンさんがその妨害により落下する。
「大丈夫ですかっ!?」
慌てて菜月も飛び降りて、レオンの下へ駆け寄る。 どうやら怪我はないらしくレオンは起き上がった。
デボラさんが此方を殺意の宿った瞳でギラギラと睨んでいる。 戦闘は必須らしい。ヘレナさんは戦いたくなさそうだが、そうも言っていられない。 殺そうとしてくる相手には殺す気で向かわなければ此方が殺される。 銃を握りしめ、デボラさんに照準を合わせた。
「殺してあげなさい。可哀想だと思うならね」
未だに認めきれないヘレナさんにエイダさんが言う。 バケモノのまま生かされてもデボラさんも嬉しくないだろう。 そもそももうデボラさんの意識があるかどうかも分からない。
ただ目の前の生者を殺すことしか考えていないんじゃないだろうか。
それは、とても辛い。 大切なものを手にかけてしまうんじゃないかと思うと、いっそのこと殺して欲しいと考えてしまう。 ――俺も、そうだった。
暗い目をして俺は無言でデボラさんに銃を向けた。 咎めるようにヘレナさんが此方を見たけれど、俺は銃を下ろさなかった。
「ヘレナさん……殺してあげなきゃ、彼女は、彼女は自分が一番やりたくないことをやってしまうんだよ?」
それはきっとヘレナさんを殺すこと。
はっとしたようにヘレナさんが眼を開いた、けれどすぐに哀しげに歪められる。 向かってきたデボラさんに発砲する。オレンジ色に発光する弱点を狙い撃つ。 正確に狙われたそれは脆い部分を破壊していく。
が、やはり老朽化が進んだ建物はその戦闘の衝撃に耐えられなかったらしく、再び崩壊する。 地面に叩きつけられて呻く。でもやっぱり無傷。
ぐらぐら揺れる危うい建物をレオンさんと一緒に走りぬける。 エイダさんとヘレナさんは違うところに落下してしまったらしい。傍にはいなかった。
ひたすら回廊を駆け下りて、トロッコに乗る女性陣と合流した。
ごとんごとんと動き出すトロッコ。 ようよう息がつけると俺は座り込んだ。
が、ドン、とトロッコに衝撃が走り、その衝撃で俺は頭を打つ。 後頭部に走る痛みに涙をちょちょぎらせながら顔を上げる。
「――ひぃっ!?」
何かを考えるよりも前に横に転がった。 いつの間にやらトロッコにしがみついていたデボラさんの触手が先ほどまで菜月がいた場所を貫いていた。 顔を真っ青にさせながらも、ハンドガンを構える。
何とかエイダさんとレオンさんの攻撃もありデボラさんを退ける。
が、トロッコの線路が途中で途切れていたのだ。
「わぁああああっ!?」
トロッコから放り出されて、俺は宙を舞う。 目の前に見えた木の板を無我夢中で掴む。 運悪くその木の板に中途半端に刺さっていた釘に手を置いてしまったらしい。 手に痛みが走り、赤い血が顔に掛かる。
「い……ってぇ……」
呻きながらも手を動かすことはできない。 もしも手を離そうものなら、俺の身体は遥か下まで落ちてしまうことだろう。
……痛い、痛い……苦しい……助けて……ヘレナ……。
突如頭の中に響くように聞こえた声に俺ははっとした。 デボラさんの声だとすぐに俺は気づくことができた。
どうして声が聞こえたのかはわからないが、彼女が泣いていることはわかった。 だってずっと泣き声が聞こえるから。
(助けなきゃ……!)
俺は歯を食いしばり、自力で身体を引き上げた。 ヘレナさんににじり寄るデボラさんを手で掴んだ。
「苦しいんだろ、哀しいんだろ!もう、休もう……?」
「!」
俺の声が届いたのか、デボラさんの目に光が宿った。 そして、己の目の前に座り込むヘレナさんに気付いたらしい。 よろよろと危うい歩みでヘレナさんに近寄る。
「ヘレナ……」
が、デボラさんの身体はぐらりと揺れて横に倒れる。 ――そこに道はない。 反射的にヘレナさんが手を掴む。
「もう泣かないわ……あなたの仇を取るまでは」
ヘレナさんが言う。 するりと、手が滑る。
「だから……」
ヘレナさんは自分の意思で手を離した。
「許して……」
泣きそうな声だった。 もしかしたら、心の中で泣いていたのかもしれない。
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