- ナノ -



彼らと共に:03

それから沢山培養槽のある部屋に辿り着いた。
レバーを引いて道を作っていかなくてはならず、とても大変だった。

ゾンビも大量に出たが、先ほどハンドガンを手に入れたため案外ラクに進むことができた。

白衣のゾンビが多くなってきた。
何かの研究所だったのだろうか?
あんまり好きじゃないのは、きっと俺自身が実験体だったからなんだと思う。

長い廊下の向こう端から駆けて来るシュリーカーの喉元にハンドガンで撃ち込む。
ぱん、と風船が割れるように一気に喉元が萎んでシュリーカーが倒れる。

が、ゾンビは広い施設だからかどんどんと沸いてくる。

「きりがないな!ナツキ、ヘレナあそこまで走るぞ!」

レオンさんが示したのは廊下端にあるダストシュートだった。
一斉に駆け出して、一番先に着いたレオンさんがダストシュートの扉を開ける。
ヘレナさんが飛び込み、その後を追いかけて俺も飛び込む。

どすん、と着地点で尻餅をつく。

「……っいてて」

お尻についた砂を払い、俺は周りを見回した。
……わーお、どういうことなの?

薄暗い洞窟のようなところ。
電球の灯りがつけられているお陰で何とか道は分かる。

俺、ウェスカーと同じで鳥目だから暗いところいやなんだよなぁ……。
まあこれより鉱山の時の方がもっと暗かった。
それを思えばマシなのかもしれない。

「いい加減に話したらどうだ。お前は何を隠している?」

「言っても……きっとあなたは信じてくれない……でも、あの子さえいれば……"あいつ"の企みを立証できるの」

「あの子って、さっき言ってたデボラさん?」

俺が尋ねるとヘレナさんは小さく頷いた。
が、新たに出てきた"あいつ"とやらを俺達に教える気はないらしくヘレナさんは閉口した。

「あの研究所……それにエイダ……」

「あの映像の人、知り合いなの?」

先に進みながら、会話する。
俺は相変わらず二人の話を聞いているだけだけだが。

「お前が全部話すなら、引き換えに教えてもいい」

「私だけ質問なんて、ムシが良すぎたわね……」

それだけ言って、レオンさんもヘレナさんも無言になってしまった。
なんだかギクシャクした空気に俺は気まずくなる。
仲を取り持つことも、空気を和ませることもできない。

あぁ、クリスとシェバとの旅が恋しい……。

こんな風に気まずくなることなんてなかった。
居辛い空気なんてあの二人にはなかったのになあ……。

何の音もしない。
時折聞こえるのはゾンビのうめき声だけか。

黙々と先へ進んでいると広い空間に出た。
部屋の真ん中には女の子が倒れている。
ネグリジェ、というのか丈の短い薄い服を着ているが、もう少しでパンツが見えそうだ。
……今はそんなこといっている場合じゃないか。

「デボラ!」

ば、とヘレナさんが駆け出した。
倒れていた女の子――デボラさんを抱き起こす。

「デボラ、しっかりして!」

「……ヘレナ?」

何とか意識はあるらしい。
彼女は目を開けてヘレナさんの名前を呼んだ。
それに安堵したのかヘレナさんはデボラさんを抱きしめる。

「……良かった!」

けれど、デボラさんは頭を押さえて苦しそうにする。
どうやら何かされたらしい。何かを想像するには容易いが、あまり信じたくはない。
俺も、似たようなものか……。

「何が、起こっている?どういうわけか、話してくれ」

状況をつかめないレオンさんが険しい顔でヘレナさんに尋ねる。

「まずはここから抜け出さないと……そのあとすべてを話す……約束するわ」

デボラさんを背負い、ヘレナさんはレオンさんを真剣な眼差しで見つめる。
レオンさんは少し怒った様子だったけれど、結局諦めたようにため息をついた。

「ヘレナさんが戦えない分俺もフォローするよ」

「……ありがとう、ナツキ」

場を和ませるようににこりと微笑んだ。
ヘレナさんもわずかばかりだが、微笑みお礼を言ってくれた。

かなり広い空間だった。
木を組まれてできた通路を進んでいく。
脆そうに見えたが、案外しっかりと作られているらしい。
軋むことも、足場が抜けることもなかった。

「デボラ……聞こえる?もうすぐ家に帰れるからね……」

呻くデボラさんに優しく声をかけている。

つり橋の前で思わず俺は足を止めた。
ゆらゆらと危なっかしくつり橋は揺れている。
これを、渡れというのか……俺に。むちゃだ無理だいや、てかほら落ちるって!!!

「ナツキ?どうした、行くぞ?」

「……あの、俺、ちょっとつり橋は……」

引きつり笑いを浮かべて冷や汗をかく。かといって置いていかれるのも嫌だ。

「俺が先行する、ナツキは後をついてくるといい」

真ん中を渡れば怖くないさ、と励ますように言われて俺はおずおずと頷いた。
――いい人だ!レオンさん!
行くぞ、というが否やばっと駆け出すレオンさん。そしてその衝撃でぐらぐらと揺れるつり橋。
やっぱり前言撤回。全然いい人じゃないわレオンさん。

揺れてるからって進まないわけには行かない。
涙目になりながら、俺はつり橋を駆け抜ける。
全力疾走したお陰かつり橋の揺れを感じずにすんだ。

息は切れているけれど。

神様はよほど俺が嫌いならしい。
つり橋……まだ、ありました……!!

そのたび全力疾走したわけだが、お陰で菜月はすっかり疲れてしまった。



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