クレアさんと。:01
BSAAの仕事ももうほぼ失敗せずこなせる様になり、右手も前と同じくらいに……いやそれ以上に動かせるようになった。 クリスにはまだまだ追いつけないけれど、自分なりの速度で前進はできている。と思う。
毎日欠かさず行っている射撃訓練をしながら、ナツキはニマリと口元を上げた。 使ったマガジンはひとつ。遠くにある的の穴はひとつ。一回だけあてたわけじゃない。すべての銃弾が的の中央を射抜いたのだ。 普通なら難しいはずだが、この義手のおかげでこんな芸当もできるようになった。生身の腕では直に来る反動も、義手なら反動を感じないまま銃を連射できる。 空になったマガジンを抜出し、ふぅと小さく息を吐き出した。案外義手も悪くない、なんてな。
射撃訓練もこれくらいでいいだろう。あんまりマガジンを使うと怒られる。訓練用の銃をもとの位置に戻し、空になったマガジンは指定の場所へと放り込む。 この後は特に用事も仕事もなく、晩御飯を食べてから就寝するのみだ。訓練場に掛けられているシンプルな時計を横目で見やり時刻を確認する。 短い針は四を少し過ぎたところを指していて、晩御飯にするには少々早すぎる。
さて、どうしようか。
射撃訓練場を出て、ナツキは腕を組みながら廊下をゆっくりと歩く。 このまま寄宿舎に戻ってもやることがないし、町に出ても買いたいものも特にない。
「ナツキ」
「はっ!なんでしょうか!」
うんうんと考え込んでいるとふいに背後から声をかけられた。堅苦しい返事をしながら反射的に踵を返し、素早く右手で敬礼をする。 ぴんと伸びた右手の指先の向こう側に見えたのは苦笑しているクリスの姿だった。
「ってクリスか……吃驚したよ」
一応クリスも上官といえば上官だけれども、やっぱり色々と違う。仲間であり、追うべき背中であり、俺のお父さんだ。身体を脱力させて、敬礼をしていた腕をおろす。
「悪かったな。ナツキを捜していたんだ」
「へ?俺を?何で?」
きょとんとしてクリスに聞き返す。何かBSAAで悪いことをしてしまっただろうかと一瞬模索したが、特に思い当たる節はない。 そもそもここ一週間は書類整理ばかりを任されて、大したことなんて何もしていない。は!もしかして、整理の仕方が間違えていたとか……!?
「……何を考えてるのか知らないが……別に仕事の事じゃないぞ」
ひとりで顔を青くしているナツキに呆れたようにクリスが言う。ああなんだ、とナツキは小さく息を吐き出し、胸をなでおろす。
「今日はもう仕事は終わりだろう?だから俺の家に来ないか?」
「クリスの家?」
「ああ、会わせたい人がいるんだ」
柔らかく微笑むクリスの顔を見ながら、断る理由もなかったためこくりと首を縦に動かし頷いた。
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