- ナノ -



クリスと。:01


ハンドガンを構え、遠くの紙の的を狙う。
神経を研ぎ澄まし円の書かれた紙の中央の黒点を睨むように見つめ、引き金を引く。

――タァン

乾いた音が響いた。
しかし、狙いは大きくはずれ、円の外に穴を開けている。
あぁ、また駄目だった。がっくりと肩を落とし、すっからかんになったマガジンを抜き、新しいマガジンを挿入する。

普通に生活出来るくらいに義手には慣れた。が、BSAAでこなす仕事はハードなためまだまだ上手く出来ない。
特に射撃の腕は驚くほどに落ちた。昔はもっと上手かった、と思う。凄い、とシェバやクリスに誉められるくらいなんだから多分。
それが一気に最底辺。BSAAに入って初めて射撃訓練をした時、呆然とした。
的にすら当たらない。正直、かなりショックだった。射撃は一番の取り柄だったのに。

こんなんじゃ駄目だ、と今も毎日射撃訓練を欠かさずやって、かれこれ二ヶ月。漸く的に当てれるようになって来た。
しかし、こんな状態を一ヶ月も続けているともう的の中央には当てれないんじゃないかと不安になってくる。
上官には君にはショットガンが似合ってると思うけど、なんて言われたけれど、基本中の基本のハンドガンが出来なくてショットガンが出来るはずが無い。
確かに散弾だから敵に当たる確率は高くなるだろうけれど、緊急時は小回りの利くハンドガンの方が良かったりする。
それを実際に経験して知っているからこそ、俺は今もハンドガンの練習をしていた。

響く銃声は俺のものだけだ。
他の隊員達はもう帰ってしまった。

「もっと練習しなきゃ……」

時間を確認してから俺はマガジンを入れ替える。

――タァン

はずれ。

――タァン

円の中だが、一番外側。

――タァン

はずれ……もう、嫌になってきそうだ。
溜まらず、ハンドガンを振り上げた。地面に叩きつけようとして、ぎりぎりのところで止める。
そんな事をしても意味がないだけだ。それに暴発するかもしれない。

「……、」

手を下ろし、ハンドガンを両手で包み込むように持った。
すっかり慣れてしまった重量のそれは使い古されそこかしこに傷がある。
小さくため息を吐いて、右手でハンドガンのグリップを握りなおした。

ぼんやりしている時間なんてないんだ。
クリスと肩を並べれるくらいになるためには。

もう一度構え、引き金を引く。
乾いた音が何度も防音の室内に響き渡る。
時計の針が二周しても菜月は撃ち続けていた。




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