ピアーズと。:05
スパゲティと格闘し何とか全ての料理を食べ終えた俺達はカフェを出た。 支払いは全てピアーズがしてくれた。結構な値段だったように見えたのだけれど、ピアーズは何にも言わずに支払っていた。 それに申し訳なさを感じたが、ピアーズはどうせ気にするなと言うんだろう。
病院への帰り道を歩きながら、俺は空を仰いだ。隣にはピアーズがいる。
「……なぁナツキ。欲しい物、親友と家族って言ってたよな」
「え、うん、そうだね」
話しかけられ、菜月はこくりと頷く。 ピアーズは何か考え込んでいるのか、やけに真剣な顔をしている。 その表情に俺はどぎまぎしながらピアーズの次の言葉を待った。
「家族は無理かもしれない……」
でも、とピアーズは続けた。
「親友なら俺がなってやる……親友なんて急には無理だろうが、いつか」
いつか。ピアーズの言葉に目の奥が熱くなった。 時折この空間がとても素敵な夢を見ているんじゃないだろうかと思ってしまう自分がいた。 幸せすぎて夢ならずっと覚めないでと思って、でも、頬を撫でる風の冷たさとか、此方を見つめるピアーズの瞳が夢じゃないんだって教えてくれる。 嬉しくて、嬉しくてそれだけでもう、胸がいっぱいだ。
「……ありがと、」
その言葉をくれるだけで、俺は……。
緩やかに口元を上げ、菜月はピアーズに微笑んだ。 そっと手を差し出した。ピアーズはややあってからそこに自分の手のひらを重ねた。
重ねられた手の温もりに、胸まで暖められた。
「こうやってさ、手を繋ぐのって初めてなんだ」
こんなに温かくて、お互いの存在を感じられる物なんだね。 そう言って笑うとピアーズは少し驚いたような顔をしてから、目を伏せた。
「……そう、か」
「あ、今ピアーズ俺の事可哀そうな奴とか思ったでしょ」
ふふんと不敵に笑って指摘するとピアーズはばつの悪そうな顔をした。
「でも俺、今凄く幸せなんだ」
繋いだ手に力が篭るのを感じた。 そこからピアーズの想いが流れ込んでくるような気がした。
「……だって親友が隣にいてくれるから」
は、とピアーズが顔を此方へ向けた。
他人からすればそんなくだらない事、なんて言われるかもしれない。笑われたって別にいい。幸せなんて、誰かに決められる物じゃない。 一緒にいる。これが、俺の幸せだから。どんなに小さな物も俺にとっては大きいんだ。
「ホンットにお前って……欲がないよな……」
呆れたようにピアーズが小さく笑った。 俺はそれに笑い返した。とびっきりの満面の笑顔で。
小さな幸せをかみ締めて、いつまでもこんな時が続きますように、と心の中で願った。
-fin-
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